~なぜ、顧客経験にフォーカスできないのか?~
ヘルスケアビジネスにおいては、顧客は目標とするゴールに向かって顧客自身がなんらかの行動を選択し、それをある一定期間継続して行くことで成果を手にすることになります。つまり、顧客自身に変わってもらうこと(行動変容)をサポートするというビジネスになります。そのため、健康改善・向上・維持機能を持つプロダクトやサービスを販売するだけではなく、継続的に使ってもらうことまで考えサポートする必要があります。
しかし、国内既存ヘルスケアビジネスの商品やサービスは、法的・倫理的に正しいことが最優先され、開発生産に専門的な知見が必須で、論理的かつエビデンスが必要ということに注力されており、どうしても提供者論理で商品・サービス設計がされています。極端な言い方をすると、「自社技術で商品・サービスを正しくつくって論理的にそれが健康に役立つはずだから、そのニーズを持っている人にアプローチする」というビジネスモデルがまだ多いのです。
人の健康になんらかの貢献をもたらす商品・サービスをつくるのですから決して間違っているわけではありませんが、こういった商品・サービスがセールスで苦戦するのは顧客経験という視点が欠落していることが一つの原因と考えられます。
~顧客経験をどう考えるのか?~
レコーディング・ダイエットというメソッドをご存知でしょうか?日々摂取する食物とそのエネルギー量や体重を記録することで、自分が摂取しているエネルギー量、食事の内容、間食などを自覚し、食生活の改善につなげるというものです。単純なメソッドですが継続できた場合のダイエット成功率は極めて高いことが知られています。
でも、それは継続できたらの話です。継続させるためには機能的な側面でのアプローチだけでなく、顧客経験デザインの発想で取り組む必要があります。
では、顧客経験デザインの発想で取り組むとどうなるでしょうか?
顧客が経験するであろう現象や事柄を分かりやすくガイダンスしていく手法を用います。これは面倒臭いことをあえてやってみようと思える“誘いと気づき”を提供するイメージです。
面倒臭さを上回る楽しい経験を見せるには、成功ケースにある行動変容ポイントを細かく分析していくことが必要で、これらのポイントは多くの顧客からその経験をヒアリングや観察し抽出します。
例えば、
「心構えとして、中断してもまた再開可能で何度でもOKのつもりでスタート」
「続けていくと体重と食事の関係が自分なりに見えてくる」
「生活行動時間(活動・睡眠)による食事への影響が見えてくる」
「食事や運動を工夫すると変化が現れる」
「自分流の傾向が見えてくる」 ・・・などです。
レコーディングを続けていくと、面白い気づきが起きます。体重計測は数字(スコア)で出るので、日々の行動選択がゲーム感覚になり、自分流に工夫することが楽しくなるのです。
このように顧客経験のストーリーを「自分流ダイエット方式発見の旅」としてサポートを企画したプロジェクトは大成功となっています。
顧客経験デザインのアプローチは実際の顧客経験プロセスから再現性のありそうな効果のあった行動・思考パターンを見つけ出し、試して、サービスの流れの中にサポートとして織り込んでいくことで、アップデートも継続していきます。
~IoT時代に加速すべきこと~
IoT時代はあらゆるデジタル技術で日常生活が便利になっています。
レコーディング・ダイエットを例に考えてみても「体重計測すると通信でスマートフォンなどのアプリへ自動で記録」「食事記録アプリにある画像認識技術による食事記録の自動化」「スマートフォンによる自動歩数記録」等、使える技術はすでにたくさん存在しています。今後はいかにIoT活用を推進していくのかが、あらゆるヘルスケアケアビジネスのポイントとなるでしょう。
その際も顧客経験デザインの発想は極めて重要になります。IoT進化によってあらゆるものがネット接続され、顧客である生活者もネットと常時接続している状態になることにより、顧客経験をより魅力的にしていくためのタッチポイントが容易に設定可能な環境となり、顧客経験へのアプローチ機会が劇的に増加していくためです。
ヘルスケアビジネスにとってIoTを使った顧客経験デザインは、まさに導入期を迎えています。 今から顧客経験にフォーカスすることで、サービスプロセスを見直し・改善し、パフォーマンスをアップしていける可能性が広がっていくと考えるべきです。
来月から全3回にわたり、顧客経験デザインについてより深く掘り下げ、解説いたします。
ぜひ一緒に学びましょう!
執筆者:株式会社スポルツ 代表取締役 大川 耕平氏
編集人・編集責任者:武坂