ヘルスケアビジネスにおける顧客経験デザイン|新ビジネスの種

2018年9月18日

第2回  ユニーク顧客経験デザイン解説(上)

~ヘルスケアビジネスにおける顧客経験デザイン~

今回は具体的なヘルスケアサービスの事例として「あすけん」をモデルにし、顧客経験デザインのプロセスをみていきましょう。 後に紹介する2つのフレームを活用することで、サービスの優れた点や今後の課題もみえてきます。

「あすけん」は2007年にスタートした会員数230万超のダイエット食事記録サービスです。ウェブ版からスマートフォン向けアプリまで運営しており、主なサービスの構成としては、以下の項目が挙げられます。

わたしの記録 食事記録(朝食、昼食、夕食、間食)、食事記録内容に対するアドバイス、運動記録、体重記録、目標設定(Myプランでダイエット宣言、目標と頑張り方、Myルール設定)、日記、グラフ(あすけん健康度、体重体脂肪率、摂取カロリー、消費カロリー)
みんなの日記 新着ダイヤリー、お気に入りユーザー、あなたに似ている度
ダイエットの知識 ダイエットの基本、ダイエット方法、目的別、栄養辞典・食材辞典、豆知識・用語集、みんなの痩せご飯、ダイエット成功者ブログ、簡単カロリー計算、ダイエットレシピ、特集など

サービスのコンセプトは“食の選択力”を提供することです。人生の楽しみは体の健康があってこそ!「あすけん」を活用することで、より多くの人が食に関心を持ち、健康なカラダづくりを意識するようになります。 それにより栄養・健康に関するリテラシーが身につくため“ただ痩せる/体重を落とす”ではなく、健康的に美しくなることを可能にしているのです。

それでは「あすけん」の顧客経験を分析してみましょう。

どのプロセスに、どんな顧客経験デザインの工夫が存在しているのかをわかり易くするために「BLA(ブラ)」と「継続ドライバ」という2つのフレームを用いてご説明します。

まず「BLA(ブラ)」ですが、これはサービスプロセスの流れを示しています(図1参照)。
サービスに入る前「Before」と、使用開始時と使用中の2工程を含む「Live」、そして使用後を示す「After」。顧客との関係性を、大きな時間軸で3段階に整理するシンプルなフレームです。

2つ目は「継続ドライバ」(表1参照)。
健康&ウェルネスサービスの多くは顧客に行動変容してもらうビジネスであることを前回述べましたが、成果を得るためには行動の継続が必須です。その継続を支援するのが「継続ドライバ」です。細かく分類された8種類の「継続ドライバ」があり、それぞれに機能・効果で直接的・間接的に顧客を支援します。

この2つのフレームを使って顧客経験プロセス分析を行ってみましょう。

サービスに入る前「Before」

2015年にアプリが開始していますので、初期の顧客接点はアプリストアが中心と思われます。ヘルスケアカテゴリーでのランキングは常に10位以内にいるようです。また、様々なメディアに取り上げられる機会も多く、初期の見込み客接点は充実しています。

使用開始時と使用中の「Live」

顧客を支援する「継続ドライバ」をうまく機能させ、顧客経験をデザインしていることがわかります。

例えば、

  • 「あすけん健康度」として点数化されている無形の報酬で、やる気を維持します(インセンティブ)。
  • 「みんなの痩せご飯」など具体性ある気づきを提供するのコンテンツ群が豊富にあることで、実践力を促進します(ヘルスナレッジ)。
  • グラフ表示(見える化)による学びは、自己効力感と自己成長感を促す(モニタリング)。
  • 「自分の記録への未来さん(キャラクター)」による個別アドバイスで、自分ゴト化と食事選択の知恵の学びを繰り返し、自然と食に関して賢くなります(パーソナライズ)。※細かい14種類の栄養素バランス・摂取量が分析され20万パターンのアドバイスは飽きることがありません。
  • 管理栄養士による丁寧なアドバイスメールは、顧客に励ましと喜び、学びを与えてくれます(ヘルスコミュニケーション)。
  • 食事の画像分析は7~8割程度の精度ではありますが、IoTの連携効果として楽しめるコンテンツです(ICT連携)。
  • 「お気に入りユーザー」や「あなたに似ている度」などの機能は、自分に近い活動内容のユーザーとの出会いのチャンスを提供し、ダイエットを志す仲間同士で助け合うことで日記の習慣が身につきやすくなります(コミュニティ)。※日記をつけるとダイエットの成功率は、つけない人に比べて2倍になるそうです。

「食の選択力」を自ら学んでいける顧客経験がデザインされていることがお分かりいただけると思います。そしてこれらの機能は数多くのユーザーとのコミュニケーションで磨かれアップデートしていくのです。

使用後を示す「After」

Liveで様々な工夫がみられましたが、課題は存在します。

例えば、ある程度のダイエットに成功したその後どうするか?ずっと使い続けることのメリットや喜びをどう提供していくか?についてです。

あすけんの課題と、顧客経験デザイン

ユーザーとのタッチポイントを魅力的な価値として提供していくためには、様々なサービスやプロダクト、ユーザー同士の交流などによる、エコシステムを今後どのように形成・発達させていくかが課題と思われます。

「あすけん」をモデルにした、顧客経験デザインのプロセスをみてきました。

具体的な例を挙げ、2つのフレームによる分析により、顧客経験をデザインしていることがお分かりいただけると思います。

今後のビジネスモデル進化が楽しみなサービスです。

次回は、BLAプロセスを使ってどこのプロセスでどのような顧客経験デザインが有効性を持ちそうかについて考えていきたいと思います。

※1 継続ドライバを解説する記事:
https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/column/15/327413/010900040/?ST=health

執筆者:株式会社スポルツ  代表取締役 大川 耕平氏
編集人・編集責任者:武坂

大川耕平(おおかわ こうへい)氏

<プロフィール>

株式会社スポルツ代表取締役。Chief SPORTZ Officer。ヘルスビズウォッチ編集主幹。

1960年東京生まれ。1983年に慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、友人と株式会社ユニバーサル・データを設立。1995年に独立して有限会社スポーツマネジメント研究所を設立、1998年に株式会社スポルツへ社名・組織変更。

「デジタルヘルスで日本を元気に!」をモットーに、以下の活動に従事。

  • デジタルヘルスのサービス&オペレーション設計・導入
  • ヘルスコーチング研修&導入
  • 健康&ウェルネスサービス事業のアドバイジング&コーディネーション
  • 健康&ウェルネスビジネスプロジェクトメンバーの育成&支援
  • セミナー企画/講演
  • ワークショップ企画/運営(ファシリテーター)

Health Biz Performance Coach(健康&ウェルネスビジネスパフォーマンスコーチ)を標榜、セッションスタイルのサポートを得意とし、実効性あるコーチングを得意とする。

1999年創刊の海外医療・健康・ウェルネスビジネスモデル紹介メールマガジン「ヘルスビズウォッチ(HBW)」は、貴重な情報源として多数の支持を集める。

著書に『健康ビジネス業界がわかる』(技術評論社)、『健康サービス現場学1』(Kindle出版)、『ビジネスマン元気の素』(TBSブリタニカ)、『驚異の達人企画術』(東洋経済新報社)がある。

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