ヘルスケアビジネスにおける顧客経験デザイン
前回、「あすけん」というダイエット食事記録サービスで展開されている、顧客経験デザインの工夫を「BLA(ブラ)」フレームを用いて解説してきましたが、今回は各工程で有用性のあるアプローチについて、2つの重要ポイントを押さえながら紹介します。(図2参照)
基本的にヘルスケアサービスを使い価値を享受する生活者は、「できる」と思わないとやりません。とても重要な<行動変容理論>という、ヘルスケアサービスに参加する人のステップが存在します。
行動変容ステージ
無関心期 | 行動を行おうとしない |
---|---|
関心期 | 行動に関心はあるが、実行する段階ではない |
準備期 | 行動を行う用意がある |
実行期 | 行動を行なっている |
維持期 | 行動を継続している |
「無関心期」から「実行期」までの意識行動の流れはステップ・バイ・ステップで(一歩ずつ)進みます。実は、ここが重要なポイントです。
健康行動に無関心な人が、いきなり健康行動を実行に移すということは、よほど強いインパクトがない限り、まず有り得ないからです。
Before 前行程 (サービスに入る前)
初期の顧客接点をつくり商品サービスを購入してもらうまでの工程です。
メディアを使って商品サービスメリットをプッシュするマーケティングから、大きく状況が変化していくのもこの工程の特徴です。
以前は繋がっていなかった見込み客と、Facebook・Twitter・Instagram・Youtube・Pinterest などの、ソーシャルメディアを使った顧客接点づくりが可能となります。
このプロセスで有効な顧客経験デザインは「親和性」と「自己効力感」への気づきです。
ここでアクティブトラッカー(活動量計)の中でも抜群の存在感を放つ「fitbit」の、各SNS(顧客接点)におけるコンセプトメッセージから、工夫を見ていきましょう。
目標のある生活にするため、最初にFitbitへ歩数目標を設定します。デバイスはアクティビティ、エクササイズ、食事、体重、睡眠といった生活のあらゆる面を記録するため自分にあった目標を設定してモチベーションを保ち、小さな一歩があなたに大きな変化をもたらすことを実感できます。
「Fitbitはあなたらしく運動できる選択肢を提供しています。」
※fitbit facebookより 2018年6月時点
ライフスタイルの中に好ましいアクティビティがあり、fitbitが自然に溶け込んで、物語を一貫して訴求していることがわかります。
「自分にもできる!」という感覚を見込み客と共有することに成功しています。
Live使用行程 (使用開始時と使用中)
このプロセスで有効な顧客経験デザインの代表は、「顧客能動化」と、前回紹介した「継続ドライバ」です。
今回は、移動型ポップアップショップイベントとも言えそうなAMAZON Treasure Truck(アマゾン トレジャートラック)を参考に「顧客能動化」についてご紹介しましょう。
AMAZONのトレジャートラック(Treasure Truck)は顧客を能動的存在へと導く事に成功したのですが、そのプロセスがユニークです。
一般会員よりロイヤリティが高い、米国のアマゾン会員向けの参加型の顧客経験がデザインされています。
あらかじめ公開している限定商品をトレジャートラックに積み込み、決められたルートで運行します。そのルートを専用アプリで検索し、自分が受け取りたい地点を選んで、決済します。
ここで重要なのは、顧客は自ら欲しいと思った限定商品を、定められた地点へ自ら取りに行くことで、能動的な存在となっているのが特徴です。
このトレジャートラックはド派手なデコレーションが施してあり、商品の受け取り場所はサンプリングイベントなども開催し、お祭り状態が演出され、、とにかく目立つそうです。
つまりトレジャートラックから注文した商品をピックアップする、という顧客経験を演出しているのです。
この経験をユーザーはインスタグラムやFacebookなどのSNSへ拡散し、結果としてますます興味深いコトづくりとなって行きます。
これが顧客に意味のある役割を提案し、参加することで価値増幅と顧客能動化へつなげるポイントとなります。
近い将来、ドローンなどで自宅にタイムリーに届けるサービスや、音声デバイスECHOなど、日常の便利さはまだまだ進化して行くと思いますが、どちらも利用者は受動的な立場のままとなります。それに対し、利用者が自らの役割を楽しみながら演じるという、参加型の顧客経験デザインをしているのが、トレジャートラックなのです。
次回は、IoT時代のマーケティングの中心になっていくと思われる、コミュニティデザイン&ドライブというコンセプトで、顧客との継続的で発展的な関係性をどう考え運営していくか?について解説します。
執筆者:株式会社スポルツ 代表取締役 大川 耕平氏
編集人・編集責任者:武坂