“イノベーション”
企業を取り巻くビジネス環境は、不安定で不確実、かつ複雑で曖昧模糊な混沌とした状況、つまりVUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代へと本格的に突入しています。そのような中、持続的な成長をめざすため、“イノベーション”を経営課題の一丁目一番地に定めた企業が、専門組織の立ち上げや、オープンイノベーションの推進、スタートアップ企業との連携等々の様々な取り組みを、業界や企業規模問わず展開している、というニュースを目にしない日はありません。
ただ、この”イノベーション”は、古くは「技術革新」と訳されたこともあり、必ずしも正しい文脈で捉えられていない言葉の一つと言えます。ここで、唯一絶対の定義を行う必要はないのですが、一つの例を紹介すると、イノベーション研究で知られる関西学院大学の玉田俊平太教授は「創新普及」と訳しています。つまり、「機会を新しいアイデアへと転換する」という「創新」と「それが広く実用に供せられるようにする過程」という「普及」が合わさっていると解釈できます。
では、企業の立場として、この“イノベーション”をどう捉えればよいでしょうか?
ここで重要なのは、画期的な技術革新が伴うことが絶対条件ではなく、あくまでも、社会やまだ見ぬ顧客にとってこれまでにない新たな価値が生み出されているかどうか、且つ、それがビジネスという仕組みを通じて、社会に広まっているのか、ということです。
この一連のプロセスを推進することが、企業における「新規事業」であり、結果、自社の持続的な成長に寄与するのです。
では、誰も先を予測できないこのVCUAの時代において、企業としてどのように「新規事業」を創出していくことができるのでしょうか?
現時点で、万人にとっての“正解”は、誰も示すことができないはずですが、所謂答えの無い、正しいかどうかも分からない、茨の道である「新規事業」創出の取り組みには、既存のマネジメントの中で育まれてきたものとは異なる、新たな「考え方」と「やり方」が必要になる、ということが分かってきました。
当コラムでは、計2回に渡り、筆者が取り組んだ産学連携共同研究 や、実際の新規事業創出支援活動から得た知見を踏まえ、「新規事業」を創出するために有効と考えられる新たな「考え方」と「やり方」を、ご紹介していきます。
第1回となる今回は、その「考え方」と「やり方」とは一体何なのか、そもそもどのような構造で捉えておけば良いのか、また、その前提として何が必要になるのか、について触れていきます。
まず、この「考え方」と「やり方」とは、どのような構造となっているかを示したのが、下の図です。