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2021年7月14日

課題を見出し、新たな価値の創出へ  スタートアップ成功の道筋を体験しよう

これまで日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナーであり、シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めてきた田所雅之氏。日米のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、事業創造会社ブルー・マーリン・パートナーズのCSO(最高戦略責任者)、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOを歴任し、2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立。同年に出版した著書『起業の科学』(日経BP)は約15万部にもおよぶ異色のロング&ベストセラーとなり、起業・新規事業のバイブルとして未だ根強い人気を誇っている。
公益財団法人大阪産業局 大阪トップランナー育成事業では、その田所氏を講師に迎え、2021年8月6日(金)、23日(月)の2日間にわたる特別講座『アントレプレナー育成プログラム2021』を開催する。
AIやICT、IoT、5Gなど最新技術による社会構造の進化と、コロナ禍を契機に変わりゆく“常識”や“価値観”。これからの時代、事業を取り巻く環境はどう変化していくのか、どんなスキルや視点が求められるのか。
――来る8月の講座に向けて、田所氏の想いを伺ってみた。

起業を科学するメソッドで、失敗を潰し成功へと導いていく

――株式会社ユニコーンファームがめざす方向性、また、田所さんが考える支援とは?

当社がミッションとして掲げているは、「ユニコーン企業を1,000社輩出する」ことです。
ユニコーン企業とは一般的に「時価総額1,000億円を超える未上場のスタートアップ企業」と定義されますが、我々のこだわりはそこにはなくて、フォーカスするのは「新たな産業、新たな市場を創っていけるかどうか」なんです。

そもそも、事業はスタートアップ型とスモールビジネス型に大別できて、両者はまったく異なるもの。スモールビジネス型は、すでに顕在化されている市場で、従来のやり方を改善していくことでより良いものを提供するビジネスですが、一方のスタートアップ型はGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表されるような、従来の市場にはないまったく新しいプロダクトやサービスを生み出すスケーラブルなビジネスモデルです。
ところが、日本は80年代90年代のメーカーが強かった時代に培ったスモールビジネス型の指向が強く、そこでの成功体験が強すぎてトランスフォーメーション(変化、変革)が出来ていないのが現状。私自身、10年前にシリコンバレーで起業した際、既存の新規事業の作り方や需要開発ではまったく歯が立たなかった経験があります。

その時の失敗をはじめ、ベンチャーキャピタルで国内外の数多くのスタートアップを評価してきた経験から、そこに共通的な課題とか失敗する要素とかプロセスってあるんじゃないかなと考え、それらを抽象化し、体系化したのが『起業の科学』なんですね。

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)が重視されていますが、スタートアップとは、産業のトランスフォーメーションに他ならないと私は思っていて、トランスフォームとは、異質なものに非連続に進化することと捉えています。
それは、生産工場で歩留まりを上げるとか、クオリティチェックをしてエラーを減らすというような持続型イノベーションではなく、課題の抽出から始まって、仮説、検証を繰り返し新たな価値を創出していく言わば破壊型イノベーション。遠いモノをつなげる着想力や構想力が必要になってきます。

従来の持続型イノベーションでスタートアップをめざすのは、例えるならば野球のルールでサッカーをするようなもので、勝てるわけがないんです。
しかし、破壊型イノベーションのトレーニングを、ほとんどの人が受けていない。

そこで、そのノウハウを体系化し、しっかりと伝えていくのが、我々ユニコーンファームの役割です。年間数百社のスタートアップ事業にアドバイスやメンタリングさせていただいているので、そこで得た知見、具体的な事例をできるだけ皆さんにお伝えし、起業の失敗を潰し、成功へ導いていく――それが、我々ユニコーンファームのスタートアップ支援だと考えています。


大きく時代が動いていく今、スタートアップの絶好のチャンス

――コロナ禍で厳しい状況が続いていますが、スタートアップを取り巻く今の日本の現状をどう見ておられますか?

私の視点から見ると、非常に大きなチャンスだと思っています。
コロナの影響で世界的にリモートワークが広がるなどさまざまな局面でデジタライゼーションが進み、いよいよDXの実現に向け意識が芽生えてきたところだと言えるでしょう。
2000年代がWEBやインターネットへのシフト、2010年代がスマートフォンへのシフトとするなら、2020年代はバーチャル(仮想空間)へのシフト。Zoomを使って遠方の相手とミーティングしたり、オンラインで講演を行ったり、重要な意思決定やオペレーションがバーチャルなデジタル空間で行われるようになりました。

こうした時代の背景が変わることで何が起きたかと言うと、人々の行動変容であり、それに伴う新たな需要の発生です。需要に対してまだまだ供給が少ない今は、まさにビジネスチャンスだと言えるでしょう。

もう1点、2010年代にスマートフォンとクラウド、SNSの3つをデバイスの登場によってさまざまな市場が拡がっていったように、2020年代は5GやXR、IoT、AI、ICT、ディープテックなどのテクノロジープラットフォームが、いよいよ2023年ぐらいから成熟期に入っていくと考えられます。さらに、SDGs(持続可能な開発目標)が注目を集めており、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)などSDGsに最適化したような事業の組立てや、エシカル消費に最適化した事業の組立てが起こっています。

バーチャルへのシフト、次世代デバイスの台頭、SDGsの3つを軸にして、今、市場はどんどん変わろうとしています。そうした流れを、面倒臭いと捉えるのか、好機と捉えるのか…私としては、この変化をすごくポジティブに捉えていますね。
観光や飲食、インバウンドなどコロナの影響で減退していた需要も、ワクチンが浸透していけば、恐らく今年末ぐらいから来年、一気に戻ってくるでしょう。

こうしたさまざまな状況を踏まえ、2010年代に起こった大きな変化や変革が、2020年代にもどんどん起きていくと考えています。


世の中に対する違和感や不満を持つ人と、共に未来を考える場に

――8月に開催される講座では、どういったテーマでどんな学びの機会にしたいとお考えですか?また、どんな方の参加を期待されていますか?

本を読んだり話を聞いたりするインプット以上にアウトプットが大事だと思っているので、2日間をかけて、皆さんと一緒に考えていくワークショップを行う予定です。

テーマは“「魚の釣り方」を教える”こと。
こんなアイデアはどうですか?と「魚」を与えるのではなく、フレームワークを呈示し、自分なりのストーリーを考えていくことで、何が必要で何が課題となっているのかを論理的に導く力を身に付けてもらおうと。

2日間でどこまでできるか分かりませんが、自ら思考していく過程、つまり、「魚の釣り方」を知ることで、具体的なプロジェクトでの実践やスキルの習得につなげていただければと思っています。

スタートアップを取り巻く環境は、ここ10年で大きく変わりました。資金調達額をみても、リーマンショック後の2011年は800億円ぐらい。それが、2020年で約5,000億円、今年はもっと増えて6,000~7,000億円ぐらいいくのではないでしょうか。10年前のおよそ10倍ですね。
2016年~19年にかけてメルカリのような大型上場が続いており、そこで上がってきた先輩起業家たちが、さらに下の世代に対してメンタリングしたり投資を行ったり……遅ればせながら、いよいよ日本もシリコンバレーのようになってきたんじゃないかなと。

スタートアップは、それ自体が目的ではなくあくまでも手段。現状を打破して変えていくためのツールであると私は考えています。だからこそ、スタートアップにとって大事なことは、問題を解決することではなく問いを立てること。世の中のことや自身の身の回りのことに対し、何か違和感や不満を持っている人、そしてそれをどうにかして自分の手で変えていきたい人、そんな人にこそ、ぜひ私たちのワークショップに参加して欲しいですね。

田所氏を講師に迎えた特別講座のお申込みはこちらより 参加者募集(申込締切:2021年7月25日)
アントレプレナー育成プログラム2021

田所 雅之 氏

<プロフィール>
田所 雅之 氏

株式会社ユニコーンファームCEO
株式会社ベーシックCSO
関西学院大学大学経営戦略大学院 客員教授

これまで日本で4社、シリコンバレーで1社起業をした連続起業家。
2017年発売以降115週連続でAmazon経営書売上1位になった「起業の科学 スタートアップサイエンス」、及び「御社の新規事業はなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学」 「起業大全」の著者。
2014年から2017年までシリコンバレーのVCのパートナーとしてグローバルの投資を行う。
現在は、スタートアップ経営や大企業のイノベーションを支援するUnicorn FarmのCEOを務める。
年間の講演回数は160回(2019年実績)
新規事業アドバイス/メンタリングは600回(2019年実績)
内閣府タスクフォース(価値デザイン社会審議会)メンバー
経産省主催STS(シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援)の協議会メンバー
経産省主催TCP(ベンチャー支援プログラム)のメンター/審査員
などを歴任。