「自己紹介しましょう!」となると、「●●株式会社で●●という部の●●長しております●●●●と申します。本日はどうぞよろしくお願いします」みたいな、名刺をそのまま読み上げるような人たちばかりです。同じ感じのスーツを着て、基本構文の単語だけを入れ替えて、果たして、その人の価値をどこまで認識できるのでしょうか? 聞いたことある会社か、知らない会社か。高い身分の役職か、面白そうな役職か。よくある名前か、珍しい名前か。そんな感じでしか認識できないのではないでしょうか。人も、ビジネスでは「商材」となるブランドの一つです。“一押し”や“一芸”がないと、その人を認識し、記憶するまでになかなか至りません。
ブランドには2つの構成因子があります。ブランドを因数分解すると、機能的価値を表す「知覚品質」と情緒的価値を表す「感覚品質」に分けられます。冒頭の肩書きばかりの自己紹介は、まさしく知覚品質をオンパレードしたもの。これに、居住地とか、家族構成とか、年収とか、出身大学とか、資格とか入れたら、聞いている方が赤面してしまうくらいに完璧な知覚品質の出来上がりです。
さて、自己紹介と同様、商品やサービスといったブランドの価値を伝えるときについても、一辺倒な紹介で済ませていないでしょうか。
健康や医療、美容といったヘルスケアの商材の場合、その機能的価値「知覚品質」を構成するものに、1. 有効性、2. 安全性、3. 簡便性、4. 経済性、等があげられます。もう一方の情緒的価値「感覚品質」を構成するものは、どの商材にも共通して、1. 共感性、2. 安心感、3. 事前期待値、4. 事後満足度、等があります。読者の皆さんは、すでにお気づきになったかもしれませんが、私たちはヘルスケアの商材の「価値」を伝えようとするとき、おおよそ機能的価値だけで差別化を図ろうとしています。つまり、あの恥ずかしい自己紹介と全く変わらないことをしているということです。たとえば、「有効性については、ウチの会社の商品Aの方があの会社の商品Bに比べて1.5%高いという結果が得られています。すごいでしょ!」とか、「経済性について、ウチの商品Aをご利用いただいた場合、あの会社の商品Cに比べて年間500円お安くなります。お得でしょ!」とか。どこかの製薬会社がやってしまったように、優位になるデータだけを抽出して、それらを統計学的に操作し、医薬品のプロモーションに用いていた…なんていう事件は、その典型的な例です。
でも気づいてください。価値を伝えるもう一つの要素に、生活者ニーズから発想した情緒的価値があることを。