ヘルスケアビジネスで成功するマーケティング|新ビジネスの種

2017年1月18日

第9回 ヘルスケアビジネス最大の「未病者」ビジネス

注意を促す「黄色信号」の人たち

メタボリック「症候群」、糖尿病「予備軍」、高血圧「境界域」、「プチ」うつ、「かくれ」不眠など、病気以前の“病気じゃない”人たちを呼ぶいろんな言葉があって、彼らをターゲットに、これまで多くのビジネスアプローチが行われてきました。そしていま、「未病」なる言葉にこれらすべてが集約されていくような機運が生まれています。

といっても、「未病」はもともと東洋医学の側にしっかりありました。和漢薬と相性がいい言葉として、古くからひとの体質を表す言葉として用いられてきました。

いま、この「未病」を二つの方面、つまり西洋医学的な未病と東洋医学的な未病を合わせて、「未病」と呼ぶアプローチが色濃くなっています。

  • 自覚症状はないが、数値に異常がある状態(西洋医学的な「未病」者)
  • 自覚症状はあるが、数値に異常がない状態(東洋医学的な「未病」者)

です。

インサイトが全く異なる未病者

まずインサイトという言葉の説明が必要かもしれません。

  • インサイト=顕在化しているニーズ+潜在化しているアンメットニーズの総和

と、ここでは定義することにします。

さて、「自覚症状はないが、数値に異常がある状態」と「自覚症状はあるが、数値に異常がない状態」のインサイトについて探索してみましょう。

自覚症状はないが、数値に異常がある状態の方は、健康診断等で「未病」を指摘されると、「えー! そんなわけないだろう」と答えるでしょう。

自覚症状はあるが、数値に異常がない状態の方は、お医者さんに「未病」と指摘されると、「えー! そんなわけないでしょ」と答えるでしょう。

答えは同じ!ではありません。“そんなわけ”の「訳」が大きく異なります。実は、インサイトは真逆の回答になっているのです。

自覚症状はないが、数値に異常がある状態の方は、「えー! そんなわけないだろう」の隠れたニーズ(アンメットニーズ)に、“病気と言われたら悲しい”気持ちがあります。

自覚症状はあるが、数値に異常がない状態の方は、「えー! そんなわけないでしょ」の裏腹(アンメットニーズ)に、“健康と言われたら悲しい”気持ちがあります。「先生、そんなわけないでしょ。病気だと言ってください!!」なのです。

未病者ビジネスのヒント

未病者のインサイトに沿ったビジネスをつくらなければ、彼らは応えてくれません(消費行動を取ってくれません)。しかし、いまある「未病ビジネス」(ヘルスプロモーションを含む)は、「あなたは、未病者です! だから、日々の生活習慣を改善しましょう。まず食生活の改善、運動習慣の獲得、そして休養のための睡眠を心掛けましょう」という文脈を綴ります。

これでは、患者に対する日常生活に対する指導と全く変わりはありません。未病者のインサイトに応えてあげる一言が完璧に抜け落ちてます。結局、「未病ビジネス」(くどいですが、ヘルスプロモーションを含みます)になってないのです。

重要なのは、「未病」扱いされた未病者からまず、「ですよね!」「やっぱりねー」「よかったぁ~」という類の返事を導くワンクッション・サービスの創造です。つまり、未病者にスイッチを入れるための、ほんのちょっとのアイデアです。このスイッチ開発が、ヘルスケアビジネス最大の市場において機能するのです。

執筆者:西根英一(株式会社ヘルスケア・ビジネスナレッジ 代表取締役社長、マッキャン・ワールドグループ 顧問、事業構想大学院大学事業構想研究所 客員教授)
編集人・編集責任者:武坂

西根英一氏

<プロフィール>
マーケティングデザイン開発とコミュニケーションデザイン設計の専門家。商品開発、サービス創造をはじめ、市場戦略、販路開拓、顧客獲得のための“精緻な設計図”を描き、広告プロモーション、戦略PRを最適化する。近著に、『生活者ニーズから発想する健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』(宣伝会議)。 大塚グループ、電通グループを経て、マッキャン・ワールドグループ。大手企業、全国の中小企業のヘルスケアビジネスをマーケティング戦略面からコンサルテーション、地方自治体の地域ヘルスプロモーションを支援する。各種研究機関の役員、委員も務める。大学教員(専門:ヘルスケアマーケティング、若者マーケット)。講演登壇、番組出演、教育研修の機会多数。