「健康」を測るウェアラブル機器が集積しているのは、血圧や脈数といった《生体情報》とか、食事や歩数といった《日常行動》、そして天候や環境といった《オープンデータ》です。ただそれらを記録するだけなら、就業「日誌」や業務「日報」となんら性格的には変わりありません。規則に従ってつけてます!というような、くやしさ満載な感じです。でも、ホントにウェアラブル機器が集積したいのは、鍵のかかった「日記」の中身です。きっとそこに綴られるのは、しでかしてしまった悪事の数々や秘密の出来事、うれしかったあの人の言葉だったりするはずです。
最近よく耳にする言葉に、IoT(Internet of Things)があります。あらゆるモノがインターネットにつながるという意味です。さらに、すべてのものがインターネットにつながる、IoE = Internet of Everything へと世の中はもの凄い勢いで変わりつつあります。いま起こっているこれらの動向は、あらゆる《事象》をインターネットにつなげると解釈できます。IT技術あっての、つまりシーズ(Seeds)側の技術革新があっての発想が起点となっています。その代表的なものが、先進技術の粋を集めたウェアラブル機器だったりするわけです。
ときに、私は問われます。たとえば、こんな課題を昨年いただきました。慶應SDM(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科)の白坂成功先生より、「ヘルスケアマーケティングの立場から、IoTについて話してもらえないでしょうか」。経済産業省絡みの事業構想に関する講演依頼でした。そこで、私はマーケティングコミュニケーションの専門家の立場から、IoTの新しい解釈として、IoT = Internet of Thinks(あらゆるコトがインターネットにつながる)を提唱しました。Things《事象》でなく、あらゆるThinks《心象》がインターネットにつながるという解釈を加えることによって、新たなビジネス開発のベクトルが見えてこないだろうかと語りかけました。まさしくこのアプローチこそ、生活者ニーズ(Needs)から発想するマーケティングの基本原理に立脚するものです。
私のようなマーケティングコミュニケーションの専門家がアプローチするのは、ひとの消費行動です。消費に向けての行動変容、特にその行動を左右する制御因子を知るにあたっては、“事象を診る”だけでなく、“心象を観る”ことが大切とされます。《心象》は、マーケティング戦略においては、インサイト(顕在化しているニーズ+ 潜在化しているニーズ)の概念に近いものと理解していいでしょう。この心象探索こそ、ひとの消費行動の制御装置を操作する“何のために”“誰のために”のパスワードを導き出すことにもつながります。