新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

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2017年6月20日

第2回  新規事業を立ち上げる前に整備しておく3つのポイント

「弊社は3年後に20億円の新しい売上を作ることが目標として与えられていて、大変ですが刺激的な毎日を送っています!」
という方がいる一方で、 「新規事業をやろうと言うものの、具体的な話になると全然進まなくて、、、。」と仰る方も。

これは、先日私が開催した新規事業担当者の方々との座談会で出てきた会話です。先の発言は、前者が某大手メーカー(A社)、後者が大手製薬会社(B社)でした。新規事業担当という点は同じではありますが、会社によって取り組み内容にかなり差がありました。

今回はこの座談会から導かれる新規事業を成功させるための社内体制・制度の在り方について考えます。実際に新規事業をスタートさせる前に、以下の3つのポイントが整理されているか自社内でご確認頂きたいと思います。

新規事業担当トップの「胆力」

「今後はイノベーションが大事だから新規事業をやろう!」という総論的な点についてはご参加頂いた全ての企業が同じでした。しかし、、、。

A社の場合「3年後に20億円の売上を作るためならそれ以外は基本自由。必要なサポートがあるなら言ってくるように」というスタンスで進められています。

一方で、B社の場合は、方針すら出ずに具体的には何も進んでいないという状況とのことでした。
この差はどこから出るのでしょうか。

それはリスク許容度、言い換えるとトップの「胆力」に一因があります。

新規事業は既存事業に比べると遥かにリスクは高く、当然失敗する可能性は相応にあります。社長直轄で新規事業をする場合は別として、多くの場合は役員クラスの方が責任者になります。この役員クラスの方のリスクへの許容度によって全くその後の進み方が異なります。

「自分が担当役員のうちに大きな損を出されると自分のキャリアに傷がつく」

企業内での激しい出世競争を考えると理解できなくはないですが、このような考え方をしている責任者の元では新規事業は育つ確率はほぼありません。

「自分のキャリアのためではなく、自社の将来のためにリスクを取ってチャレンジするんだ」というコミットメントは新規事業成功の不可欠の条件です。

ルールの明確化

ルールに関しては細かいものまで挙げていくとかなりの数になるのですが、ここでは私が重要と考える2つに絞って書きたいと思います。

・意思決定の簡素化と権限委譲
A社の場合、意思決定は担当役員さんに相談に行くだけで、原則その場で意思決定が出ます(大きな金額の投資以外)。かつその役員さんとは基本的に毎日顔を合わせるので、必要な時には随時意思決定ができます。

一方で、B社は、意思決定は担当役員ではなく原則として役員会を通さなければならないとのことでした。役員会は通常月1回しか実施されませんので、意思決定はどうしても遅れ気味になります。

社内の新規事業であれベンチャー立ち上げであれ、勝ち抜くためにはスピードが非常に重要です。この意思決定のスピードだけで、A社さんとB社さんのどちらが成功確率が高いかは明らかです。

また、意思決定の迅速さとも関連しますが、どこまで権限を委譲するかについても重要な要因です。既存ビジネスとは異なる基準を作り、できるだけ現場で意思決定ができるように権限移譲を進めることが重要です。

意思決定の簡素化と権限委譲を考えると、新規事業を一部門ではなく分社化して進めるという方法があります。
様々な調整は必要ですが、分社化をすることで意思決定や権限移譲について新しい仕組を作ることが可能になりますし、メンバーに気合いが伝わるという意味で十分に検討に値するでしょう。

・撤退基準の設定
「スタートする前から撤退基準を決めておくの?」と思われるかもしれませんが、新規事業を始めるにあたって撤退基準を明確にしておくことは極めて重要です。

新規事業は想定通りに進まないのが常です。しかし、一旦スタートすると組織行動上ストップするという意思決定がなかなかできないというのが現実です。その結果、将来性が低いビジネスだとわかっていてもズルズルと継続してしまい、結果として多額の資金を失ってしまうことになります。

このような事態を避けるため、例えば「3年以内に月次損益黒字化」という簡単なルールや、A社のように期限と売上規模の目標を作り、それを撤退基準とします。

撤退基準を明確化する目的はズルズルと将来性のない事業を続けないようにすることです。従って、撤退基準を越えられなければいかなる場合でも撤退する、というように杓子定規に考える必要は必ずしもありません。
しかし、撤退基準を越えられないということは当初の想定と違う現実に直面しているということを意味します。その事実を受け止めて、ルール通り撤退するか、それでも継続するかの意思決定を冷静に行うことが必要です。そのタイミングを持つことは過度な資金流出を抑止する効果に繋がります。

人事制度やチームについても重要なルールがあるのですが、この点は次号にて詳しく考察したいと思います。

他部署からの理解と協力

新規事業立ち上げの場合、既存事業の販売網、また既存の技術、生産設備を使えるというケースが少なからずあります。このような内部資源の活用は新規事業を成功させる上でかなり有利に働きます。(ここはゼロから立ち上げるベンチャーと社内での新規事業立ち上げの一番違う点です)

しかし、新規事業部門が他部門からあまり良く思われておらず、「好き勝手なことばかりしている金食い虫」のように思われている(これは結構ある)場合は協力を得ることが難しくなります。

このような事態を回避するためには、経営者や担当役員がなぜ今新規事業に取り組んでいて、全社的に協力する必要があるのかを十分に社内に説明しなければなりません。

新規事業部門もアンタッチャブルな部門のように立居振る舞うことなく、常日頃から現業部門に相談と協力への感謝を伝える等、継続的にコミュニケーションしていくことが重要です。(A社もここは色々工夫をされているそうです)

また、現業部門が新規事業部門に協力した場合の評価への反映も同様に重要です。

今回は新規事業を立ち上げる前に整備しておく3つのポイントについて考えてきました。新規事業を立ち上げる際に、担当者を選んだだけでスタートする企業は数多くあります。しかし、今回の2社の事例からもわかる通り、成功確率を上げるためにはそれ相応の体制整備ができているかどうかで成果に大きく差が出ます。

新規事業に取り組む際には是非参考にして頂きたいと思います。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。