新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2017年7月18日

第3回  新規事業開発チームに必要な3要素

ベンチャーキャピタルが投資すべきかどうかの意思決定をする際に最も重要視するポイントは何だと思いますか?

マーケット環境?あるいは競争優位性の有無?

勿論それらの要素は重要ですが、それよりもより重要視するポイントは、「経営チーム」です。

経営チームが良い会社は、高い確率で業績を伸ばし大きく成功します。逆に、経営チームが信頼できない場合はマーケットや競争環境がたとえ良いとしても、なかなか思い描くような成長は実現できません。

社内における新規事業立ち上げの場合でもベンチャーの経営チーム組成と同じことが言えます。

ロンドンビジネススクールのジョン・ムリンズ教授は
その著書「ビジネス・ロード・テスト」(英治出版)の中でベンチャー企業における経営チームは3つのポイントから評価できるとしています。
その3つとは
「使命、志、リスク許容度」
「KSFに対する実行能力」
「バリューチェーンの人的ネットワーク」です。

この3つのポイントを参考に、新規事業における経営チームの組成の仕方について考えていきたいと思います。

使命・志・リスク許容度

このポイントをかみ砕いて表現すれば、チームのメンバーが
「その事業についてどの程度熱意を持っているか」
「その事業を大きく成功させたいと思っているか」
「そのためにリスクを取る覚悟ができているか」
ということです。

ベンチャーを立ち上げる場合ならば、起業家自らが考えたアイデアを基に会社を立ち上げることになりますので熱意やリスクを取る覚悟については当然ながら持ち合わせています。

ところが新規事業の場合は必ずしもこのポイントがクリアされているとは限りません。

自ら志願したわけではなく会社からの指示で新規事業担当者になった場合、「なぜ突然興味がない仕事に関わらないといけないんだ」という不満や、「自分は出世のラインから外れてしまった」という誤解を持たれることが多々あります。結果として熱意が低くチームとして機能しません。

また、「万が一失敗して自分の評価が下がるようなことがあると割に合わない」という不安を持たせてしまうことも多くあります。

このような不要な不満や不安を持たせないためには次の二つの対策が有効です。

1.担当者候補全員に全社戦略における新規事業の重要性を説明し、その目的を腹落ちさせる。

2.取り組む新規事業プランの発案者をチームに加えることで、チーム内に熱意を持たせる。

新規事業プランを考えた本人はそのアイデアについて面白味を強く感じていることが多く、熱意という点においては社内で最も高く持っています。この発案者をチーム内に加えることによってチーム内の熱意を高い水準に維持することが可能となります。

また「その事業を大きく成功させたいと思っているか」という志の点においても発案者が他のメンバーに直接説明することができるため、大きなプラス効果が見込まれます。全社的な意味でその重要性や目的を理解したメンバーに対しては、発案者がメンバーに加わることによってモチベーションを高めることができるようになります。

一方、「そのためにリスクを取る覚悟ができているか」というリスク許容度に関しては社内での新規事業開発において最も困難が伴います。

乱暴な言い方をすると、「新規事業のリスクについては全て自分が責任を負う」というくらい覚悟を持つ社員は存在しません。それくらいの覚悟があるのであれば自ら起業している場合が多いからです。

社内における新規事業の場合、万が一失敗したケースでもある程度新規事業担当者のリスクを回避できるような社内制度を構築する必要があります。
例えば、新規事業担当者については、単純に新規事業の成否だけで評価されるのではなく、そのチャレンジに対する取り組みや、新規事業から学んだことについての社内へのフィードバック効果を含めて評価制度を設ける等の対策が必要になります。ここの対応が十分ではないと「新規事業を担当すると人事評価上、損になる」という雰囲気が社内に芽生え、新規事業が育たない社風になってしまいます。

KSFに対する実行能力

KSFというのは「Key Success Factor」の略で、事業における主要な成功要因のことです。
事業において必ず押さえておくべきポイントは業種によって様々です。私はかつてスポーツクラブの経営支援をした経験がありますが、スポーツクラブの場合は立地の良し悪しが成功するかどうかを決定するかなり重要な要因となります。 KSFに対する実行能力の一つは、このような事業の成功に大きな影響を及ぼし得る要因を見つけ出す能力のことです。これには業界における高い分析能力が要求されます。

また、小規模ながらも経営の舵取りをするため、経営戦略、マーケティング、会計・財務、組織論等の主要な経営の機能について一定の知識が必要になります。

一人が全ての経営知識を持つということは難しいと思われるかもしれません。しかし、新規事業チームをノウハウが異なる様々な部署から集めるクロスファンクショナルチームにすることによってこの課題はある程度クリアすることが可能です。

これに加えて、経営コンサルタント等の外部の専門家に力を借りるということも検討に値します。特に、新規事業立ち上げの経験が社内にさほどない場合にはその効果が大きいと言えます。

外部の経営コンサルタントに一定期間サポートを受けながら、そのノウハウを社内に移管していくことは今後継続的に新規事業を生み出すことを考えると有効です。(当然ながら、優秀なコンサルタントを選ぶという前提ですが)

バリューチェーン上の人的ネットワークについて

新しくビジネスを立ち上げる場合、例えば仕入先候補、あるいは販売先候補のようなバリューチェーン上にネットワークがあることは大きなメリットになります。仕入先や販売先に一から関係を作って行くことに比べれば、事前に人間関係があり色々情報を取りながら進められるのは、スピードという観点でも適切なパートナー選びという観点でもリスクを大きく下げることに繋がります。また、同業者(競合になり得る企業)とのネットワークがあれば業界情報を引き出せる場合があり、有効に働き得ます。

「そんな社員はうちにはいない」と思われる経営者の方が多いかもしれません。確かに個人でそのようなネットワークを持つ社員を見つけるというのはそう簡単ではないです(そもそもいないかもしれませんし)。

しかし、全社として考えればこの難易度は大きく下げることが可能です。

社内の新規事業のメリットとしては、一個人ではなく全社としてネットワークがないかを検討することが可能だという点です。全社的視点でバリューチェーン上の人的ネットワークを見つければこのポイントはクリアすることができます。

全社として考えた場合、仕入先について社内の他部署がその情報を持つことは十分に考えられますし、またその他部署自体が仕入先となるケースもあります。また、販売先については本業の営業部門がその情報や人脈を持つケースは多々あります。このように、他部署を巻き込むことによって人的ネットワークの問題はクリアできます。

その社内にあるネットワークを活かすためには、新規事業チームのメンバーは社内における様々な部門とコミュニケーションが密に取れる人材であることが望ましいです。どちらかと言えば、一匹狼的にやってきたというタイプよりは、色々な部署にネットワークがあり、社内でも友人が多く人気者タイプの方が新規事業担当者には向いています。

また、先に述べたクロスファンクショナルチームの組成はネットワークという点においてもプラスになります。様々な部署で経験を積んだメンバーがその人的ネットワークを活かしながら新規事業に取り組むことで全社的な協力体制を作りやすくなります(全社的協力体制をつくる重要性は前回のメルマガで述べた通りです)。

以上、新規事業チームを作る際に重要な3つの視点について考察してきました。冒頭に述べた通り、新規事業の成否はその取り組むビジネスの内容以上に、誰がそのビジネスに取り組むのかという点が成功に大きく影響します。

経営チームが持つべき重要な要素は「事業への熱意」「KSFを実行するための能力と知識」「社内・社外のネットワーク構築力」に大きくは分けられます。全社的なサポートが必要ということは言うまでもないとして、是非貴社の新規事業立ち上げの際にはこの3つ要素を参考にしてチーム編成をして頂きたいと思います。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。