2015年02月17日
介護ビジネスは儲かるのか?どこが有望なのか?
~介護付き有料老人ホーム、グループホームは“高収益事業”?!~
介護給付(介護総費用額)は、2000年度には3.6兆円であったが、継続的に増加し続け、2013年度には9.4兆円と、年平均7.6%の増加となっている。社会保障負担の増大と捉えると、憂うべく状況ではあるが、産業として見ると、低成長下の日本において、著しい成長を続けているとも言える。
そうはいっても、介護は国の施策や規制による影響が多大な市場である。団塊世代が後期高齢者となる2025年問題を控え、介護を必要とする人の数が増える中、国は、少しでも社会保障費を抑制(適正化?)するために、様々な施策を打ち出している。
ところで、介護保険サービスといっても、十把一絡げ(じゅっぱひとからげ)ではなく、施設と在宅、入所と通所など様々なビジネスモデルがある。当然、必要となる設備や職員配置、必要とされるスキル等が異なり、収益性も変わってくる。それに加えて、事業主体の経営方針によって、職員への分配(報酬)や内部留保等の水準も異なる。
昨今では、異業種から介護ビジネスへの参入が増えているが、苦戦している企業も多い。介護報酬は先日の改定で、2.27%の切り下げられることが決まり、一層厳しい環境になると予測される。
一般には、介護ビジネスは、職員の賃金水準も低いにもかかわらず、労働集約的な側面があり、なかなか収益を出すことが難しいとされている。しかし、前述のように、実態としては、その収益には濃淡があり、一様ではない。
今月は、介護事業経営実態調査等を中心に、介護保険サービスの収益性について検討する。
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1.介護って意外と儲かっている? ~「社会福祉・介護事業」の売上高営業利益率は8%以上~
総務省「平成24経済センサス 活動調査」によると、企業の本来の実力を表す「売上高営業利益率」が最も大きいのは「学術研究.専門・技術サービス業」(15.2%)で、次いで「不動産業」が12.5%、「飲食サービス業」が11.5%となっている(図表1)。介護が含まれ、保育所や障害者事業等と合算した「社会福祉・介護事業」は、8.1%と全20分類中8番目となっており、「小売業(6.4%)」や「教育・学習支援業(5.7%)」、「農林漁業(5.3%)」等を上回る( 〃 )。それぞれの事業構造が異なる為、単純比較はできないものの、これだけみると、比較的好調なように見える。
ただし、営業利益とは、売上から人件費を含む販売費を差し引いたものであり、介護業界の給与水準は全産業平均よりも低い(1)ことから、人件費を圧縮することで利益を確保している場合もあると考えられる。
(1):平成25年厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、福祉施設介護員の平均月収は22万円、年間ボーナス等は44万円となっており、そこから、平均年収(ボーナス込)は306万円程度と推定される。一方、全産業平均では、414万円となっている(国税庁「平成25年民間給与実態統計調査」)。
図表1:売上高営業利益率(産業分野別)
注)・売上高営業利益率=営業利益/売上高=(売上高― 費用総額)/売上高
・本調査における「売上高」とは「売上(収入)金額」又は「経常収益」を指す
・「社会福祉・介護事業」:「児童福祉事業」、「老人福祉・介護事業」及び「障害者福祉事業」を合算
・赤丸は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
出所)総務省「平成24経済センサス 活動調査」
2.介護事業の収益性はマチマチ
続いて、介護サービスの収益性を、さらに個別に比較してみると、事業によってかなりの差異が現れている。
厚生労働省「介護事業経営実態調査」等によると、平成26年の介護事業の収支差率(図表2の脚注参照)は、全サービス加重平均では8%と、全項目の売上高営業利益率に近い値となっている。
これをサービスの種類別にみると、「通所介護(デイサービス)」は持続的に比較的高い水準を保っており、平成26年には10.6%となっている(図表2)。「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」も、平成22年の12%から下降気味ではあるが、依然として高水準となっている。「訪問介護(ホームヘルプ)」は最初は低かったものの、徐々に上昇し、平成26年には7.4%となっている。
さらに、詳細に、平成26年における各サービスの収支差率を比較すると、「特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム等で要介護者に対して行われるサービス)」が12.2%、「認知症対応型共同生活介護(グループホーム)」が11.2%である一方、「居宅介護支援(ケアマネージャーによるケアプラン作成、連絡・調整)」は-1.0%、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は0.9%となっている(図表3)。
ただし、介護付き有料老人ホームの場合、その他のサービスとは収益構造が異なり、介護報酬以外の収入(入居一時金、家賃、食費、管理費等)が多いため、そのような高い収支差率になっていると考えられる。
なお、介護サービス全般の特徴として、支出(2)に占める人件費割合が高いという点が挙げられる。そんな中、厳密にはいえないものの、概ね、人件費の割合が高いと、収支差率が一層低くなる傾向が読み取れる(図表3)。
(2):本調査では、支出に占める人件費割合ではなく、収入に対する給与費の割合で代替している。
図表2:主な介護サービスの収支差率の推移(サービスの種類別)
注)・収支差率=(収入-支出)÷収入
収入=介護事業収益+介護事業外収益-国庫補助金等特別積立金取崩額
支出=介護事業費用(給与費、減価償却費等)+介護事業外費用+特別損失-国庫補助金等特別積立金取崩額
・全サービス加重平均:介護総費用におけるサービス毎の構成比に基づき、平均収支率の加重平均値を財務省において試算(出所:厚生労働省「介護給付費実態調査(26年4月審査分)」、「平成26年介護事業経営実態調査結果」)
出所)財政制度等審議会財政制度分科会 財務省主計局提出資料
(社会保障(1)(総論、医療・介護、子育て支援)平成26年10月8日(水))より抜粋
・介護事業の収支差率
平成20年度、平成23年度、平成26年度:「介護事業経営実態調査結果」
平成22年度、平成25年度:「介護事業経営概況調査結果」
平成21年度、平成24年度:財務省による線形補完(調査が行われていないため)
図表3:各サービスの状況
出所)厚生労働省「平成 26 年介護事業経営実態調査結果の概要」
3.今後の介護サービスの収益について
言わずもがなであるが、介護サービスの主な収入は介護報酬であるため、この水準が高いか低いかによって、収支差率や経営状態は大きく影響を受ける。つまり、国の施策の方向性として、参入事業者を増やしたいサービスの報酬を上げて、打ち止めにしたいサービスのそれを下げる、というように決まってくる。
そして、昨今は、「施設から在宅へ」という流れがあるため、今後は、在宅サービスの報酬が引き上げられていく可能性が高い。
さらには、介護経営実態調査等によって、収支差率が他産業等とも比較して高かったサービスについては、「財政的に余力がある」と判断され、その報酬が削られていく構図になっている。
具体的に、2月6日に発表された社会保障審議会介護給付費分科会の方針をみてみると、ホームヘルプや訪問看護等、在宅サービスの報酬については、概ね引き上げられている一方、特別養護老人ホームや老人保健施設等、施設系は引き下げとなった。
中でも、介護報酬の基本料は、特別養護老人ホームで6%弱、小規模のデイサービス(通所介護)では9%以上も減額されることになった。双方とも、前述のように、平成26年の収支差率が比較的大きなサービスである。特別養護老人ホームは、巨額な内部留保(1施設3億円、全体で2兆円)の存在が指摘されており、また、介護総費用に占める割合も大きい(2割程度)ことから、在宅化の流れとも合わせて、減額になった可能性が高い。一方、小規模(月利用者延300人以内)のデイサービスは、小規模ゆえに経営効率が悪いということで優遇されていたが、その収益性の高さから急増してしまったため、抑制する意味合いもあったと考えられる。(同じく収益差率の高かった、グループホームの基本料も、概ね6%弱の引き下げとなっている)。いずれにしても、両サービスとも、今後は、厳しい経営環境になることが予想される。
社会保障費を抑制をするためには、サービスによって報酬の濃淡をつけるだけではなく、今回の認知症対応や職員の処遇改善に対する加算のように、基本は下げて、誘導したい対策については増額するという流れもある。
介護においても、診療報酬と同様、加算やサービス同士、介護保険と自費等をうまく組み合わせながら、質と収益の両立を探り続ける必要がある。
編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社