2015年9月15日
労安法改正『ストレスチェック義務化』で需要が高まるビジネスとは?~「“メンタルヘルス不調者”になりたくない層」を狙え!~
今月は、先月ご紹介した「~労安法改正による『ストレスチェック義務化』で顕在化するか~従業員のメンタルヘルス対策需要」の続編として、より具体的に需要が高まると考えられる健康ビジネスを取り上げる。
※記事をご覧いただく場合は「詳しく見る▼」ボタンをクリックしてください。
1.従業員向けメンタルヘルス対策商材の2つのルート
ストレス対策に係る商品・サービスのエンドユーザーは、言うまでも無く、企業に雇用された従業員である。従業員向けのストレス対策商材の提供方法は、概ね以下の2ルートがある。
- (1)法人向け(法人経由)(BtoBtoC):勤務先の企業が購入して、従業員に提供するもの
- (2)個人向け(BtoC):従業員本人が、個人的に購入するもの
上記の「(2)個人向け」は、一般の健康関連商材と同様に、価格や体感、信頼性、個人の好みやライフスタイルに合っているかどうか等が購入の際の主な判断基準となる。一方、「(1)法人向け」は、産業保健の枠組みの中で行われるものであり、医療・保健の理論に則っていて、エビデンスがある程度揃った方法論が求められる。現実的には、心療内科領域において、オーソライズされていないものや、認知度の低いものは、導入が難しい場合が多い。
結果的に、メンタルヘルス対策ビジネスは、法人向け、個人向けに分かれてくる。
2.法人向けEAP・検診ビジネス
~導入済企業向け「有効性が分かり易いサービス」、未導入企業向け「廉価版サービス」~
ストレスチェックの大よその実施事項と流れは、前月号の「1.「労働安全衛生法の一部を改正する法律 (「ストレスチェック義務化」等)」概要」で紹介しているが、この中で、実施企業が外部に委託する可能性が高いのが、主に以下の業務である。これらの受け皿の大半は、EAP(従業員支援プログラム)提供企業となると考えられる。
(1) ストレスチェック
- 医師、保健師等によるストレスチェック(検査)の実施
- 集団的分析の実施
(2)検査結果のフォロー
- 医師による面接指導の実施
- 相談窓口の設置、カウンセリングの実施
- メンタルヘルスに関する啓発、教育
外部に委託するかはともかく、その他の法人が取り組むべき根本的対策として、下記も挙げられる。
- メンタルヘルス・サポート体制の構築
- 人員配置の見直し、キャリアデザイン支援
- 福利厚生の見直し、人材投資の推進
- 社内交流の在り方、意思決定・意見集約のしくみの見直し
- ワーク・ライフ・バランスの推進 /等
厚生労働省「平成24年 労働者健康状況調査」によると、H24年時点で、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所は47.2%である。取り組んでいる事業所の割合は規模と比例しており、300人以上の規模ではいずれも9割以上に達する一方、30人未満では4割未満となっている。また、メンタルヘルスケアに「取り組んでいる」と回答した事業所に対してさらに取組内容(複数回答)を尋ねると、「労働者への教育研修・情報提供」(46.7%)や「管理監督者への教育研修・情報提供」(44.7%)、「社内のメンタルヘルスケア窓口の設置」(41.0%)といった、メンタルヘルス不調者もそうでない人も対象とした教育・啓発活動(ポピュレーション・アプローチ)が多く挙げられている。一方、医療機関をはじめとする社外を活用したメンタルヘルスケアなどはいずれも15%未満と少ない。
また、メンタルヘルスケアに取り組んでいない理由(複数回答)については、「必要性を感じない」(51.0%)が最も多く、次いで「取り組み方が分からない」(31.6%)となっている。さらに、メンタルヘルスケアの効果について「ある・あった」とする事業所は36.9%である一方、「効果が分からない」が6割以上となっている。
つまり、余裕があってメンタルヘルス対策に関心のある大手の事業所は既に何らかのメンタルヘルス対策をしているところが多いが、今回の制度で実施が義務付けられている、ストレスチェックや面接指導に取り組んでいるところは多くはない。従って、既に何らかの取り組みをしている事業所に対する、これらのサービスの受託市場が活性化していくと考えられる。その場合、現在、既に取引関係があるEAP等の委託先が有利とも考えられるが、導入しても効果を感じられないという事業所が多いことから、より有効性や体感の高い、可視化できるサービスが登場すれば、そちらに切り替えが進むと考えられる。その点、法人向けビジネスは、心理学的チェック(問診等)や保健指導、医師等によるカウンセリングがメインとなると前述したが、3.で紹介する、主に個人向けと想定しているビジネスについても、エビデンスや実績があれば、取り入れられる可能性がある。
一方で、現在、取り組んでいない事業所においては、対策の必要性自体を感じていない事業所も過半数に達しており、義務化によって対応をせざるを得なくなったとしても、他社と横並びで比較した場合にそん色がないように、最低限の対応で済ませる可能性は高い。言葉は悪いが、今回の制度では、実施内容の質(どれだけ徹底するか等)までは問われない。そこで、廉価で必要最低限のサービスに対する需要も発生すると考えられる。
3.従業員個人向けビジネスは「『メンタルヘルス不調』になりたくない」層を狙え!
~香り、体操、、、ストレス対策に、変わり種サービス続々登場~
個人向けでも法人向け同様に、ストレスあるいはメンタルヘルス不調に対する、予防・チェック、治療・症状緩和、復帰支援の各段階に応じた対処法が必要である。しかし、いったん、メンタルヘルス不調になった後は、医療による治療(投薬等)が中心とならざるを得ない。復帰段階も、まだまだ不安定であり、医療の関与が必須となる。従って、医療以外の健康ビジネスが主なターゲットとする範囲は、主に予防と考えられる。
ところで、働く人の中には、メンタルヘルス不調とまでいかないまでも、「最近、ちょっとストレスが溜まっている。手軽に解決したい」「今さえ乗り切れればなんとかなるのに、何かないかな」といった“プチ悩み”を持つ人は多い。そして、今回の制度では、メンタルヘルス不調者が“あぶりだされる”形となるが、前月号で記述した様に、会社員生活の中では、人によっては、メンタルヘスル不調と判断される状況を得なことと感じない可能性も高い。できれば、ストレスチェックで指摘される前に、なんとかしたい、と考える人も出てくるはずである。産業保健の考え方からすると、制度でひっかからない為に予防する、など本末転倒な話ではあるが、個人向けでは、この部分の需要が顕在化してくると考えられる。
一般論として、メンタルの不調は要因が複雑で、ダイエットなど他の健康課題と比較すると、対策が難しい、あるいは、ストレス・マネジメントやメンタルヘルス対策に決定打がない、ともいわれる。しかし、昨今では、従来の方向性とは異なる新たなストレス対策ビジネスも出現している。
そもそも、ストレスが過剰になると、当初は、交感神経優位の状態が続く。従って、基本的には、副交感神経が優位となってバランスがとれると、リラクゼーションが促進される等、解決に役立つはずである。かといって、時間や労力をかなり要するものは、面倒くさい、と敬遠されてしまう。体感が少ないもの、または時間のかかるものも、継続され難い。そこで、単なる“癒し”以上に本格的に、あるいは、自宅で(自身で)場所を選ばずにできるものがあれば、ニーズは大きいと考えられる。
ここで、ストレス対策に資する、つまり、自律神経の調整等にも役立つと考えられる健康ビジネスを以下に整理した*。カテゴリーとしては、一般の健康ビジネスのそれとほぼ同じであるが、リラクゼーションや自律神経の調整、睡眠改善等に役立つと考えられる成分や手法となっている点が特徴である。
*:個別の商品・サービスの効果を保証するものではありません
分野 | 例 |
---|---|
ストレス・マネジメント |
|
栄養補給
|
|
ストレッチ、体操、フィットネス、呼吸法 |
|
物理療法、セラピー |
|
人間工学等に配慮した環境 |
|
睡眠環境 (音、光、温度、湿度、匂い等) |
|
玩具・癒しグッズ |
|
その他 |
|
一般に、症状が一時的、あるいは、軽い段階では、薬の服用を嫌がる傾向があり、そういった層もこれらの商品を購入しているようである(医療の代替になる、といっているわけではなく、そういった需要がある、という趣旨である)。ここで、最新のストレス対策商材の事例を紹介する。
ストレス対策 変わり種ビジネス事例
◆体操系 「TRE(緊張・ストレス・トラウマ解放エクササイズ)」(TRE Japan)
- 概要:ストレスで収縮した大腰筋を、エクササイズやストレッチによって刺激することで、脳幹や神経に蓄積された緊張や興奮、不安等を解放し、脳や全身にリラクゼ―ションの循環をもたらす。自律神経に直接働きかけ、ホルモンバランスや筋肉・筋膜の状態を整えるため、広範な症状緩和や健康効果を引き出す。
- 特徴:(1)症状等の経緯を話さなくてもいい
(2)薬・道具等は使わずに自然治癒力を活用、医療等との併用可能
(3)習得後は、セルフケア・ツールとして1人で継続することができる - 実績:米軍防衛センター採用 「PTSD治療・ストレス・マネジメントにおいて最も有効」
Defense Centers of Excellence for Psychological Health and Traumatic Brain Injury (2011)
その他国内企業研修多数、心と体のセルフケア講習(長野県木曽広域消防本部等)
◆香り系 「緑林の香り」(日本予防医薬)
- 概要:文部科学省による研究(科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究)によって見出された「みどりの香り」(青葉アルコールと青葉アルデヒドを主成分とした8種類の化合物)を配合。
「みどりの香り」は、疲労回復、ストレスを解消させる生理活性効果が確認されている(京都工芸繊維大学 中島敏博 博士)。 - 訴求:ストレス軽減、疲労回復、快眠、更年期障害解消、花粉症軽減、ダイエット等
注)効果や特徴については、各社の資料に基づく記述であり、本サイト運営者・執筆者等が、商品・サービスの効果を保証するものではない。
出所)各社資料より、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが抜粋
法人向けビジネスについては、メンタルヘルス対策に関心のある企業なら、どこに委託するか、現時点で、既に、ある程度の目星がついている可能性が高いが、個人向け、あるいは、法人向けでも保健指導・カウンセリング以外の解決策は、制度開始後に本格的に需要が顕在化すると考えられる。自社商品がストレス対策に資すると考えられる企業は、まずは、機会あれば積極的に、メンタルヘルスケアを考えている企業に接触するなど、具体的に情報収集・検討されることをお勧めする。
編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社