2015年10月20日
競争が激化する高齢者施設の集客・満足度向上支援の新ビジネス
公的な介護施設である、特養(特別養護老人ホーム)等では、需給バランスの点から、数年単位での入居待ちが発生し、社会的問題となっている。一方、サ高住(サービス付高齢者向け住宅)、有料老人ホーム等の民間が運営する施設は、入居率が常に100%であるとは限らない。逆に言うと、これらの施設では、いかに早く、入居率を高水準に近づけ、かつ、それを保つか、が経営の鍵を握る。
そこで、今月は、これらの施設における集客支援等のビジネスを考える。
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1.入居率は、有料老人ホーム87%、サ高住78%
昨今の有料老人ホーム、及び、サ高住の入居率を見ると、それぞれ約87%、約78%となっている。
賃貸住宅の居住率(81.1%、空室率18.9%(総務省「平成25年住宅・土地統計調査」より)と比較すると、有料老人ホームはそれよりは高く、サ高住はやや低い。一方、宿泊施設の客室稼働率(シティホテル76.2%、ビジネスホテル70.7%、リゾートホテル50.0%、観光庁「宿泊旅行統計調査(平成26年4月~6月・暫定値)」)と比較すると高い水準ということができる。
それでもまだ、1~2割分が売り切れずに残っているということである。有料老人ホームの場合、居室数の全国平均が42.5室であることを考えると、仮に、5~6室が空いていて、入居一時金500万円、月額13万円の施設とすると、概ね3,300~4,000万円程度の機会損失が生じていることになる。
図表1 入居率
出所)公益社団法人全国有料老人ホーム協会「有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査」(平成26年3月)
2.集客支援・マッチングビジネスの登場
高い稼働率を確保するには、前述の様に、入居者をいち早く確保して稼働率を高めることとともに、入居者の満足度を向上させて退去(多くはないが)を防ぐことも必要となる。
まず、入居者の確保については、図表2からもわかるように、介護サービスや高齢者向け住宅・施設等の利用を考える際には、「自分の条件にあったものがみつからない」という悩みが最も多く、また、「施設や住まいの区別がつきにくい」、「制度が分からない」といった情報不足に関するものが多い。
図表3の有料老人ホームへの入居をためらう理由をみても、事業主体の経営状況やしくみが分かり難いといった情報提供によって解決できる部分もある。
図表2 介護サービスや高齢者向け住宅・施設等の利用時に気になることについて
出所)公益社団法人全国有料老人ホーム協会「H21 多様化する有料老人ホームに関する実施調査報告及び利用者等に関する調査報告」
図表3 有料老人ホームの入居をためらう理由
出所)公益社団法人全国有料老人ホーム協会「H21 多様化する有料老人ホームに関する実施調査報告及び利用者等に関する調査報告」
そこで、昨今では、老人ホームを紹介するビジネスが次々に登場している。
その内容も、WEB上での単なる情報提供に留まらず、各施設の利用者評価や、対面での相談、コンサルテーションの提供、施設への同伴まで、進化を続けている。
例えば、株式会社笑美面では、老人ホームの情報を足を使って徹底的に調べ、入居を検討している高齢者とその家族に提供することで、適切な老人ホームと高齢者をマッチングするサービスを行っている。
提供される情報は、すべて同社担当者が直接施設に訪問して57項目を1時間以上かけてヒアリングしており、一般的なスペック情報だけではなく、入居者の平均年齢、男女比、訪問診療の科目やレクリエーションの種類、リハビリテーションの内容など、パンフレットやホームページだけでは得ることのできない内容となっている。
同社のサービスでは、入居高齢者の負担はなく、入居が決定した老人ホームが手数料を支払う仕組みで、手数料は入居費用を元に算出されるため、どの施設を紹介しても手数料に差が出ず、公正かつ適切な施設紹介につながる。現在は、大阪府下と兵庫県に限定してサービスを行っているが、来春には関東へ進出する予定である。
また、大手企業もサービスを行っている。サ高住や有料老人ホームを紹介するサイト「SUUMO介護(リクルート住まいカンパニー)」では、立地地域や費用等の諸条件で施設を検索できるようになっているが、新しいのは、そういった基礎情報を横並びに比較できるだけではなく、質をいかに評価・担保するか、という観点が含まれている点である。まず、同サイトの施設掲載基準は、運営事業者にヒアリングシートや関係書類を提出してもらい、独自の審査基準をクリアしたところに限られる。さらには、各施設ごとに、入居者本人やその家族の感想・評価・要望等が掲載されている。利用者の評価は、入居検討者の判断材料になるため、現在の入居者の満足度向上が次の営業につながるしくみができた点も画期的といえる。同社の「HOT PEPPER」や「じゃらん」といったマッチング・サイトのノウハウが生かされており、中年以下の年齢層には特に、同社のブランドイメージもあいまって、非常に使いやすいサービスであると考えられる。
3.入居者の満足度向上策いろいろ
繰り返しになるが、入居率向上には、入居者の満足度向上による、退去の防止や評価・口コミ情報の向上も必須である。
ただし、居室の快適性、医療環境の充実、有料老人ホームであれば、食事のおいしさ、介護や看取りといった付加サービスの充実等は、もはや最低条件となりつつある。美容室やプール、温泉、カルチャースクール等を備えるところも珍しくない。
他にも、ボランティアを招いて、各種鑑賞会やアニマルセラピー、マッサージ、アロマテラピー、化粧等を取り入れている所も増えている。
「グッドタイム リビング(オリックス・リビング)」のように、介護リフト、見守りシステム、電動歩行アシストカートなどロボット介護機器を導入することで、介護職不足や負担軽減と共に、顧客満足度の向上を図るところもあれば、「ロイヤルケア高松(シニアライフアシスト)」のように、入居者のこだわりや要望にできる限り応えること、そのためのスタッフの質と体制を確保することでそれを実現しているところもある。
サ高住でも、「銀木犀 西新井大師(シルバーウッド)」のように、駄菓子屋を併設し、近所の小学生を呼び込み、世代間交流や地域との交流促進を図っているところもある。
つまり、高齢者向け施設においても、いかに、特徴や個性を持たせるか、といった観点も、マーケティング上、必要な段階に来ている。
さらには、今後、市場のパイが増えてくれば、より細かいニーズに合わせた市場の細分化が進むのは必然と考えられ、比較的若い年代が住むシェアハウスなどのように、ライフスタイル(例:夜更かしが好きなシニア向け)や趣味嗜好(例:旅行好き、ミステリー好き、ペット好きのシニア向け)の合う人たちといった訴求での施設なども登場する可能性もある。
来月は、有料老人ホームやサ高住における、入居者満足度向上・集客のためのアウトソーシング市場について、さらに検討する
編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社