新ビジネスの種

2016年1月19日

超高齢化で加速する流通の“シニアシフト”

今さらではあるが、シニア向け市場は、人口が減少し、経済成長も横ばいが続く、現在の日本において、成長が期待される数少ないカテゴリーの1つである。

今や日本の平均年齢は約45歳であり、65歳以上人口が総人口に占める割合は4分の1以上(26.7%、2015年9月15日現在)、40歳以上では約6割、つまり、既に中高年が中心の国となっている。そして、2060年には、65歳以上人口、40歳以上人口ともに、その割合はさらに上昇して、それぞれ、約5人に2人(39.9%)、約7割(69.7%、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位推計))に達すると見込まれており、中高年が大多数を占める社会に一気に突き進んでいっていることが分かる。

そして、平均値で見た場合、シニア層の購買力はそれ以下の層を上回る。2014年の家計調査をみても、世帯主の年齢が40歳未満の世帯の1人当り消費支出額が約7.5万円なのに対して、60歳以上の世帯では約11.6万円に達している。

しかも、シニアといっても、介護や病気などに備えて、なるべく無駄な支出はしない、という人ばかりではない。中でも、団塊世代は、“残りの人生をより充実させたい”という積極的な生き方をする人が比較的多く、この世代の高齢化によって、従来の身体機能の補完や介護予防といった健康分野だけではなく、娯楽・教養など趣味分野まで加えた、多様な”シニア向け”ビジネスが急増している。

今月は、長期的な有望市場である”シニア向けビジネス”についてサービスを中心に検討する。

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1.今や、レンタルビデオ、フィットネス、コンビニ等でも目立つ、シニアの存在感

以前は、コンビニエンスストアやレンタルビデオと言えば、“若者が利用するもの”というイメージがあった。ところが、昨今ではかなり事情が変わってきている。

フィットネスクラブでも、少し前に、『ヘルスコンシャス(健康意識の高い)』という言葉や考え方が“お洒落なもの”であるという認識が広がっていた頃は、都会派の若年層がファッション感覚で利用していたり、その後も、ヨガやピラティスが流行って若い女性が増えたり、といった時期があったが、昨今では、シニア層のアンチエイジングや疾病、要介護予防目的の利用が増えている。

セントラルスポーツの2014年度の決算資料(P11)を見ると、フィットネス会員の平均年齢は51.6歳となっており、2012年度(50.0歳)と比較しても、わずか2年間で1.6歳上がっている。同年度末における50代以上の割合も55.4%と過半数を超えている。

コンビニエンスストアにしても、50代以上の人に、「コンビニをどのくらいの頻度で利用しますか?」と質問したところ、「ほぼ毎日(10.6%)」、「週に数回(25.4%)」、「週に1回(16.9%)」と、週1回以上利用する人が半数以上に達するという結果もある(株式会社ジー・エフ「シニア・高齢者のコンビニエンスストアの利用に関する調査」)。他にも、コンビニエンスストアの顧客層の中では、かつて最も少ない顧客層であった50歳以上が、今やボリュームゾーンとなっており、減少傾向の30歳未満とは逆の動きになっているという見方さえ存在する。

一方、DVDやBDなどビデオソフト(ショップ&ネット)のレンタル利用率をみても、男女とも20~50代が概ね5~16%程度減少しているのに対して、60代は順調に増加している(男性:2011年21.9%→2013年24.9%、女性:2011年14.0%→2013年18.4%)。(一般社団法人日本映像ソフト協会、デジタル・エンターテイメント・グループ・ジャパン、株式会社文化科学研究所「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2013」)

これらは、若いころに利用していた層が、そのまま年齢があがっても継続利用している、というだけではない。中高年に人気の商品やコンテンツを増やしたり、シニア割引などの販促を強化したり、宅配など利便性を高めた複合的効果であると考えられる。

2.シニアが求める“老化を意識せずに、現在の延長線上の生活がおくれること”

では、どのような観点のビジネスが、シニアのニーズに応えられるのだろうか。

従来から言われているシニアのニーズと言えば、“年寄り扱いすると売れない”、“孫への支出は惜しまない”、“居場所づくりが鍵”、“機能低下に起因する不便・不満を補う商品・売り方が売れる”、“単なる趣味に留まらない、学び、生きがい創出までつなげる”等が挙げられており、どれももっともである。しかし、結局は、年をとっても、可能な限り“老化を意識せずに、現在の延長線上の生活がおくれること”に尽きると考えられる。

確かに、勤労者であれば退職、主婦であれば配偶者の退職や子供の独立といったライフステージの変化や人生の節目を経ることによって、自由時間が増える一方、定期収入や社会的役割が減る傾向がある為、結果的に時間や商品・サービスの消費も変わってくる。

しかし、それらの環境の変化によって、個人の性格や趣味、嗜好、意欲等が変わるわけではなく、ましてや、65歳や70歳といった“区切りのよい年齢”の誕生日を境に、「はい、あなたは今日からシニア、こういう風に過ごすんでしょ」とばかりに、その人自身が変わってしまうわけではない。

繰り返しになるが、大半の人にとっては、「仕事や子育てに替わる楽しみや充実感が欲しい、しかも、体力・気力にあったやり方で、できれば不便やストレスなく」ということが望まれていると考えられる。

具体的に考えると、商品軸では、上質なもの、青春時代の経験に結びつき易いもの、孫世代の歓心を買えるもの、機能の低下を補ったり、趣味や生活を不便なく続けるサポートになったりする保健医療等が、若年世代とは異なる要素としてプラスされる。

例えば、体型の崩れをカバーしながらスラッと見せてくれるファッション等は中高年女性から高い支持を受けている。はき心地や肌ざわり、見た目のシルエットの美しさといった機能性を追求したパンツブランドの「B-Three(バリュープランニング)」は、40代以上の女性を主力顧客層とし、6年間で直営店100店舗を出店している。

販売軸では、分かり易さ、買い易さ(できるだけ近くで(近所、宅配))、関係性の構築といった点が重要となってくる。

販売業の中でも、コンビニエンスストアはシニアの取り込みに特に熱心なビジネスの1つである。主に「健康」と「利便性向上」をキーワードに年々進化を続けている。

「健康」で言うと、品ぞろえをシニア向けに生鮮食料品や健康に配慮した少量の弁当・惣菜(減塩、低糖等)、医薬品等を増やす等はもちろん、健康管理サービス(健康管理アプリ、健康相談等)を取り入れたり、介護施設や薬局、フィットネスを併設して互いに送客したり、提携先のケアマネージャーを常駐させて介護ニーズを取り次ぐ(ローソン)、宅配先の安否確認、見守りをする(セブンーイレブン)といったサービスまで広がっている。

中には、ドラッグストアが、コンビニと提携するのではなく、自ら“シニア向けコンビニ”を展開するところも出てきた。サンドラッグは、コンビニの品ぞろえに医薬品や健康食品を加え、逆に化粧品等は抑え、さらには、多くの商品を定価ではなく割引販売をする。2013年から試験的に都内の2店舗を開設したところ好調だったため、今後は年20店のペースで増やしていく方針という。

シニア向けビジネスは、国内における需要が充足したとしても、その後は、我が国より遅く高齢化が進展している海外の市場も狙える(2012年9月号急速な高齢化の進展で需要が高まる中国高齢者市場ご参照)。既に、何年も前から有料老人ホーム等の介護ビジネスが中国等に進出している(2012年10月号日系企業の中国進出が相次ぐシルバービジネスご参照)。個別の分野に関するビジネス環境はともかく、社会的要因からだけ考えると、シニア向けビジネスは長期的に有望と言える。

編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社