有名店の美味しさを再現度90%で食卓へ
小ロット対応も可能なレトルト加工の技術を活用して、街の名店の看板料理を忠実に再現。そのこだわりが企業や大学などからも新たなPR手法として注目を集める。
小ロット対応で料理を手軽にレトルト化
― 認定プロジェクトとなったサービスについてお教えください。
箱井(孝) わたしたちの会社では飲食店のお料理をそのままレトルト食品に加工し、菌検査から販売まで展開できるサービスをおこなっています。よくある有名店の名を冠したレトルト食品は、入手したレシピをもとにメーカーが自社で調理し、それを巨大な装置で加工します。このため最低でも600パックほどの大量生産が必要になる。けれど当社では洗濯機程度の小型な装置を使用することによって35パックの小ロットからでも生産が可能で、最大の特長は飲食店の厨房で調理したものをそのまま加工することにあります。殺菌のための熱処理も短時間で済むため、風味・コクが損なわれずお店で食べるのとほぼおなじ味を提供できます。飲食店からも「90%以上の再現度」と高く評価されていますね。
― レトルト加工だけを請け負うわけではないんですよね?
箱井(孝) 小ロットとはいえ製造後の在庫不安を解消するため、オンラインのECショップも独自に立ち上げています。また、スーパーマーケットのMISUGIYA+の一部店舗でもリアル販売してもらっています。必要な食品ラベルやパッケージデザインの制作などもおこないますし、まさにワンストップで料理のレトルト食品化が可能です。
コロナ禍での飲食店の新たな収益策として注目
― なぜこのサービスを開始しようと思われたのでしょう。
箱井(孝) 以前食品メーカーに勤めていたときにコラボ商品を企画したのですが、缶詰をつくるにしても何万というロットでないと商品化できない。体力のある大手でないと無理だなと断念したことがあるんです。そうしたことから、小ロットでも気軽に製品化できるシステムを考案し、飲食店経営の経験がある母親とともに起業したんです。
箱井(美) こまかな仕組みや技術のこととかは息子に任せているんですが、飲食店の実情を知る立場としていろいろと意見やアイデアを伝えています。いまコロナなどで飲食店が大変ななか、わたしはすでに現場から引退した身ですが、がんばって経営している方々のために役立つビジネスにしたいという想いですね。
箱井(孝) 最終目標としては、このレトルトをキッカケに本物の料理を味わうために店舗を訪れるという導線をつくりたい。集客につなげたいんです。再現度90%でこれだけ美味しいのなら100%はどれだけ美味しいのだろう。そう感じて足を運ぶきっかけになってもらいたい。
飲食店経営・給食事業の経験からアドバイスを送る 箱井 美千代氏
味の再現性が認められ広がった口コミ
― サービス開始までにもっとも苦労した点は?
箱井(孝) レトルト食品の場合、安全性を確認するために加工してから2週間の経時変化を検査しなくてはいけないんです。味の再現性を高めるために滅菌時間を変化させたりしていろいろな試行錯誤が必要なんですが、そのたびに2週間の待ちが発生する。もちろん飲食店側のチェックもありますし、製品リリースまでにすごく時間がかかります。本当にニーズがあるのかを確認するためにも2~3店舗だけ声をかけてスタートしたので、最初は数点ほどしかラインナップがありませんでした。
― 現在ではかなり品数も充実していますね。
箱井(孝) そこは地道にコツコツと広げていきました。おかげでスタートしてから1年で参加してくださる飲食店が30店舗ほどまで増加しています。たぶんコロナの影響も大きくて、開店営業できない状況で収益の新しい柱になると。また、飲食店というのは横のつながりが強くて口コミで広がったのもあります。過去にレトルト販売に挑戦したけれど味が再現できなくて諦めたという飲食店がわたしたちを紹介されて、これなら満足できると参加していただけたりもしています。
新たな展開として企業や大学とも協業
― トップランナー育成事業に応募されたきっかけはなんですか。
箱井(孝) 参加してくれる飲食店が着実に増加した要因である「横のつながり」をもっと強化したかったからですね。このビジネスを開始してから実感したんですけど、レトルト食品というのは飲食店だけでなく意外にさまざまなマッチングの可能性を秘めている。最近も千里金蘭大学とのコラボレーションで栄養学科の学生さんとジビエを食材にしたカレーを開発しました。産学連携であったり、企業や団体のPR手法としてもレトルト食品は活用できると気づきました。けれど個人の力では限界があるので、大阪産業局のネットワークも借りていろんな企業とマッチングしていきたいと思ったわけです。
― では今後の展望についてもお聞かせください。
箱井(孝) ECだけでなく店頭の販売はすでにMISUGIYA+などで実施していますが、さまざまな地域の名店の味をその場で食べられるワンカウンターのテーマパークのようなものを構想しています。ハーフ&ハーフで提供して食べ比べてもらったり、調味料やトッピングを用意して自分たちでアレンジしてもらったり。本格的な美味しさを自由に楽しめる空間を創りたい。あとはインバウンド対策ですね。海外からの観光客が戻ってくると確実に需要があると思っていて、トップランナーのコーディネータの方にも相談にのってもらっています。こういうときに、すぐ専門家の方を紹介してもらえるのは心強いサポートですね。
箱井(美) 目利氣358という社名の358には、商人の心構えである「三方良し」の三方を五方、八方と多くの方向に広げていきたいという想いが込められています。レトルトという食を中心にして、これからも企業や団体、そして海外とさまざまな良い関係を築いていきたいですね。
希望するマッチング&パートナー例
- 全国に事業展開したいため、FC加盟企業もしくはファンド