建設機械の遠隔操作を実現し、土木・建築現場の生産性向上へ
「はたらくクルマ」に後付けする遠隔操縦システムを開発。建設・物流・製造業をはじめとする生産現場の働き方改革を推進し現場の人手不足解消をめざす。
遠隔から人が現場で活躍できるシステムを。
― いま建設現場では、どのような課題があるのでしょう。
倉田 技能者の高齢化や作業環境の過酷さから、労働力不足が深刻な課題となっています。一方で、現場では作業員の待機時間が重なったり、山間部にある現場では移動に時間がかかったりするなど、働き方の効率化の改善余地が多くあります。さらに社会背景として、5G通信技術の浸透やリモートワークの定着、価値観の変化によって、働き方の多様化が広がってきました。そこで、油圧ショベルやフォークリフトなど「はたらくクルマ」に遠隔操縦システムを後付けすることで、建設業界の働き方を改革し、人手不足の解消をめざすことができると考えました。
― 遠隔操縦システム開発の経緯について教えてください。
倉田 創業者の野村光寛が開発を始めたのは10年ぐらい前のことです。大学院を卒業後、民間企業に就職し、中央研究所で画像認識などを研究。その後は実家の鉄工所に戻り、土木関係の機械を作っていました。そうした中で、病気でしばらく動けなかったことがあり、本人はすごく仕事をしたいのに現場に行けない。「そういう人が他にもいるだろう、遠隔からでも現場で活躍できるようにしたい」という思いが開発のきっかけです。ちょうど同じ頃、国土交通省で遠隔操縦を推進して人型のロボットを建機に乗せようという試みがありました。当時ゼネコンから遠隔操縦の開発を依頼されていた野村は「もっと簡単な装置を」と試行錯誤を重ね、それが後付けの遠隔操縦システムにつながりました。
取締役 倉田氏
建設業界の働き方を改革し、人手不足の解消を実現。
― 後付け遠隔操縦システムとは、どのような技術なのでしょうか。
倉田 オペレーターが操縦席に座り、モニターの映像を見ながら建機を遠隔操縦することができます。遠隔で建機を動かすには3つの技術が必要で、一つは建機の操作レバーに取り付ける遠隔操縦装置「RemoDrive®」、一人のオペレーターが複数の建機を操縦できるよう切り替える「SwitchingCab®」、そして安定して信号を送る無線通信技術。このすべてを私たちで開発しています。
― 遠隔操縦が普及すると、どのようなことが可能になるのでしょう。
倉田 例えば、Aの現場が終わったら、移動することなくBの現場へ、というように複数の現場を担当できます。また、朝、子どもを保育園に預けて、日中は自宅の部屋にいながら遠隔操縦で仕事をする、ということも考えられるでしょう。労働力が減少している今、働ける人をいかに有効に労働につなげるか、ということを考えざるを得ない。遠隔操縦が普及すれば、あらゆる生産現場で、時間とスキルを有効に労働という形に変えていくことができるのでは、と思っています。
開発を進めるには、会社の土台作りも重要。
― 遠隔操縦はすでに活躍しているのでしょうか。
倉田 2016年に熊本地震で崩落した熊本城の石垣を修復する際に使われました。いつ崩落するか分からない危険な現場でこそ、遠隔操縦は力を発揮します。逆にいうと、災害復旧などの特別な現場でしか採用されていないという実情があります。様々な方面から開発の依頼があり、いろいろなものを作ってはいますが、今のところは実証実験の段階。今後は一般の建設現場でも普及していくと、労働力の減少という社会課題解決につながると考えています。
代表取締役 野村氏(写真左)
― プロジェクトを進める上で課題などありましたか。
倉田 ORAMの社内人材が足りていないことが一番の課題です。「人がおらん問題を解決する」ことから「ORAM=オラン」という会社名にしたのですが、その会社に人がおらん、というのはどうかと…。
野村 これから人を増やそうという時には、やはり会社の体制を整える必要があります。一方で私たちには開発を進めるという大きな使命があります。開発の依頼も多く、開発に力を注いでいると、会社を会社としてあるべき姿にするところまで結局手が回らないんですね。今回、大阪トップランナー育成事業の認定を受けたことで、その部分をハンズオン支援で手助けしていただいています。
遠隔操縦が普及することで人々の生活を良くしたい。
― 今後、めざす未来などありますか
倉田 これからは様々な「はたらくクルマ」の遠隔操縦を探っていきたいと考えています。現在、物流全体のシステムを変えようと通信機器メーカーからの依頼でフォークリフトの遠隔化を進めているところですし、草刈機など小さな機械の遠隔化も動き始めています。高齢化により農作業もしんどくなってきて、気候もどんどん厳しくなっている。田んぼの横で涼しい車内で農機を操縦できれば、作業も楽になるのではないでしょうか。また、不幸にも事故で現場に出られなくなった人も、その人の手には技術が残っています。遠隔操縦を使えば、移動せずにその人のスキルに見合った報酬を得ることもできる。労働力不足が深刻化する今、工夫しながら労働力を集めることが大事です。
野村 「遠隔操縦が世の中に普及することで、人々の生活を良くしたい」という思いが私たちにはあります。今後は建設機械だけでなく、様々な分野で遠隔操縦の可能性をどんどん広げていくことができるように、ORAMがその橋渡しをしてきたいと考えています。「遠隔就業で築く豊かな暮らし」の実現をめざしています。
希望するマッチング&パートナー例
- 大手ゼネコンや建機メーカー・建機レンタル業者
- 製鉄所や港湾作業所等の作業用車輛活用企業