2015年05月19日
介護市場は10年で2倍に?!
~参入する?しない?介護はやっぱり貴重な成長分野~
日本の経済は1990年代以降、全体としては低成長下にあり、今後も、年率1.0%以下の成長が予測されている。中国、インドが4~14%程度の成長を続けているのとは対照的である。国内の産業を見渡しても、有望な分野は、環境や健康など、ある程度限られている。
そんな中で、介護は、今後の高齢化の一層の進展によって、大きな成長が期待されている。厚生労働省によると、2025年度の介護給付(介護総費用額)は、2014年度の2.1倍に達すると推計されており、介護市場全体も、同様に大きな伸長が期待できる。
前回(介護ビジネスは儲かるのか?どこが有望なのか?)では、足元の介護業界の収益に焦点を当てたが、今月は、改めて今後の同産業の成長性をマクロ的に検討する。
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1.介護市場は今後も急拡大 ~介護給付ベースでは2025年度には現在の2.1倍に~
日本全体の経済成長率の推移をみると、2000年度以降は平均で1.0%を切っており、2014~2025年度では、年平均0.2~0.8%程度、11年間で約6.9%に留まると試算されている。
一方、日本の介護市場の大部分を占める介護給付(介護総費用額)※は、2000年度には3.6兆円であったが、継続的に増加を続け、2014年度には10.0兆円となり、2025年度にはその2.1倍に当たる21兆円に達すると推計されている。実質GDPと比較した場合、いかに介護の伸び率が大きいかが分かる。
※介護市場には、介護給付の範囲外にも様々なビジネスが存在する(「3.介護市場 = 加齢等に伴って心身の機能が低下した人向けサポート市場」参照)。また、国の推計値は、政策的なものであり、施策の方向性によって、大きく変わってくる可能性もある。それでも、介護給付(介護総費用額)は、現行の施策の方向性や効果、それらを反映した要介護者数の見込み等を踏まえたものであるため、ここでは、当該数値の伸び率で、介護市場全体の推移を代替している。
図表1:介護給付(介護総費用額)と実質GDPの推移と予測の比較
(2000年度値=100とした場合)
出所)介護給付(介護総費用額):
厚生労働省社保審介護給付費分科会「介護保険制度を取り巻く状況」、厚生労働省第6期介護保険事業(支援)計画の策定準備等に係る担当者等会議「日常生活圏域ニーズ調査の実施及び第6期介護保険事業(支援)計画の策定準備について」
実質GDP:
2000~2014年度:内閣府「国民経済計算」
2015年度以降:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「日本経済の中期見通し(2014~2025 年度)」を基に試算
2.介護需要の拡大は、国内のみならず海外も
過去の本稿(国内高齢者市場vs新興国若・中年市場、日系企業はどこを狙うべきか(2012年11月20日)、急速な高齢化の進展で需要が高まる中国高齢者市場~高齢者人口は日本の4倍、日本の総人口とほぼ同じ、40年後には4億人市場に~(2012年9月18日))でも紹介したように、現在、先進国のみならず、途上国においても高齢化が進展しており、今後、35年もすれば、現在の日本並みの高齢化率に達する国がいくつも現れる。しかも、中国やインドなどはそもそもの人口規模が大きいため、高齢化率自体は低くても、日本を上回る高齢者人口が存在する。例えば、2011年現在の中国の高齢者人口は、既に日本の高齢者人口の約4倍、つまり、日本の総人口に匹敵する規模に達している。
図表2:主要国の65歳以上人(万人)と比率(%)(2050年)
出所)総務省統計局資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
ところが、途上国の大半は、社会保障制度も未整備なところがまだまだ多く、ましてや、シニア向けビジネスは、種類、量において、概ね日本に大きく見劣りする状況である。つまり、単純に考えると、今後、国内市場が飽和または競争が一層激化したとしても、それを上回るサイズの市場が海外にある、ということになる。他産業を見ると、健康や美容等を訴求した食品や化粧品等が、日本ブランドや、プロダクト及びサービスの品質の高さ等をウリに海外市場に進出している。国外においても、シニア世代は、若年層よりも情報感度が比較的低く、商品・サービスをスイッチし難い傾向が想定されるため、先行者利益が大きいはずである。
概して、途上国の市場は、他の先進国も狙っている市場であり、諸制度への適応、ローカライズ(現地化)等の諸問題が多々あり、参入はたやすくないものの、自社商品・サービスの市場を海外まで含めて考えることで、規模が格段に大きくなる。
<海外進出に関する問合せ先(例)>
/等
3.介護市場 = 加齢等に伴って心身の機能が低下した人向けサポート市場
介護分野のビジネスには、介護給付等制度でカバーされている身体介護や家事援助、介護予防等以外にも、運動や施設建設、機器製造・販売、情報、人材教育・供給、生きがい創出、QOL向上まで、BtoC、BtoBに関わらず、広範な業種が含まれる。
これは、介護が、機能の低下という条件はあるものの、人間丸ごとを対象にしている市場であるということによる。繰り返しになるが、ターゲットや訴求が、元気な人から心身の機能が低下した人向けに変わるものの、基本的には全産業において参入できる可能性がある。
下記に介護関連ビジネスの一例を示したが、これら以外にも、輸送、通信、コミュニケーション、教育、趣味・娯楽といった分野や、富裕層向け、介護者向け(介護職員、被介護者の家族)といったターゲットのカテゴリーも存在する。
【介護関連ビジネス例】
4.まとめ
以上、介護ビジネスは、今後有望であると述べたが、介護保険制度を始め、国の高齢者施策の方向性に大きく影響を受ける。介護保険の給付範囲内に入るのか(市区町村の事業になるのか、諸制度の範囲外になるのか)、介護報酬はどれくらいになるのか、要介護認定はどこまで含むのか、、、保険給付内のサービス参入を狙うにしても、そうでないにしても、施策のさじ加減によって、ビジネス環境が大きく変わってしまう。
また、要介護者特有の配慮すべき点も多い。心身の機能への対応だけでなく、安全性等も、元気な人に対する基準よりも厳しいものが求められる。
情報や販売のチャネルが元気な人とは異なる場合も多い。
こうした事情が、参入を検討する企業の二の足を踏ませる傾向があるが、行政では、その様な企業に対する各種サポートを提供する窓口も増えており、積極的に活用することも検討してほしい。
編集人:井村 編集責任者:武坂
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社