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2014年05月20日

高齢者施設の訪問診療減少、在宅医療に関する診療報酬引下げ
~平成26年度診療報酬改定から~

かつて、在宅医療は“手間がかかる割にそれほど儲からない”と考えられ、一部の篤志家や使命感に燃える医師が行うもの、という印象さえあった。しかし、徐々に状況が変わり、平成24年の診療報酬改定では在宅医療の診療報酬が増額され、特に、多数の患者がいる高齢者施設における訪問診療は、1か所で効率的に診療できて“うまみがある”という捉え方が一部でなされ、参入が促進された。一方で、外来に行ける患者まで訪問診療を受けたり、患者紹介で報酬を受け取る事業者が現れたり悪徳なビジネスが指摘されるような事態も発生した。そこで、今回の改定では、在宅医療に関してドラスティックな実質的減額がなされた。その結果、訪問診療を行う医療機関やそれを受け入れる高齢者施設には大きな影響が出始めている。

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1.基本方針は引き続き「在宅化」の推進だが

診療報酬は2年に一度見直される。平成26年度の改定も平成24年度に引き続き2025年の医療・介護提供体制※に向けた見直しが行われた。改正の視点には「がん医療、精神疾患に対する医療等」「医療安全対策、患者データ等」「医療従事者の負担軽減、救急外来の機能分化」「後発医薬品等」の4領域が挙げられているが、重点課題は「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」に絞られている。より具体的にみると、「地域包括診療料」の創設等の特徴ある施策も見られたものの、目を引くのは、在宅診療に対する診療報酬の実質的な減額である。これについて次項で述べる。

※医療・介護の連携や在宅化、本稿2013年1月15日号「国を挙げて進む在宅での医療・介護~「在宅医療・介護あんしん2012」から~」>2.「在宅医療・介護あんしん2012」で推進する在宅化、参照

平成26年度診療報酬改定の基本方針のポイント

基本認識

○ 入院医療・外来医療を含めた医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等に取り組み、医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築を図る。

重点課題

医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等

 入院医療・外来医療を含めた医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実 等

重点課題への対応

1.入院医療について

①高度急性期と一般急性期を担う病床の機能の明確化とそれらの機能に合わせた評価

②長期療養患者の受け皿の確保、急性期病床と長期療養を担う病床の機能分化

③急性期後・回復期の病床の充実と機能に応じた評価

④地域の実情に配慮した評価

⑤有床診療所における入院医療の評価

2.外来医療の機能分化・連携の推進について

①主治医機能の評価

②紹介率・逆紹介率の低い大病院における処方料等の適正化

3.在宅医療を担う医療機関の確保と質の高い在宅医療の推進について

①在宅療養後方支援病院の評価

  • 在宅患者緊急入院診療加算
  • 在宅患者共同診療料

②在宅医療の質の強化

  • 機能強化型在支診・病の実績要件の強化
  • 同一建物への複数訪問の評価見直し
  • 薬剤や衛生材料等の供給体制の整備
  • 在宅歯科医療の推進
  • 在宅薬剤管理指導業務の推進

③在宅医療を担う医療機関の量的確保

  • 実績のある在支診・病の評価
  • 在支診・病以外の在宅時医学総合管理料等の評価
4.医療機関相互の連携や医療・介護の連携の評価について

①維持期リハの移行促進等
介護保険リハビリテーション移行支援料の新設

  • 維持期リハビリテーションを受けている入院患者以外の者が介護保険のリハビリテーションに移行した場合を評価。維持期リハビリテーションの評価の見直し
  • 医療と介護のリハビリテーションの役割分担の観点から、維持期リハビリテーションの評価を適正化。

②有床診療所の機能に応じた評価
地域包括ケアの中で複数の機能を担う有床診療所の評価の見直し

・過去1年間に介護保険によるリハビリテーション、居宅療養管理指導又は短期入所療養介護を実施した実績があること、又は居宅介護支援事業所であることの評価

③機能強化型訪問看護ステーションの評価
機能の高い訪問看護ステーションの評価

・指定訪問看護事業所と居宅介護支援事業所が同一敷地内に設置され、かつ、当該訪問看護事業所の介護サービス計画又は介護予防サービス計画の作成が必要な利用者のうち、特に医療的な管理が必要な利用者1割程度について、当該居宅介護支援事業所により介護サービス計画又は介護予防サービス計画を作成していること。

④主治医機能の評価
主治医機能を持った診療所の医師による、継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価

・介護保険に係る相談を受ける旨を院内掲示し、主治医意見書の作成を行っていること 等

改定の視点
  • 充実が求められる分野を適切に評価していく視点
    がん医療の推進、精神疾患に対する医療の推進 等
  • 患者等から見て分かりやすく納得でき、安心・安全で質の高い医療を実現する視点
    医療安全対策の推進等、患者データの提出 等
  • 医療従事者の負担を軽減する視点
    医療従事者の負担軽減の取組、救急外来の機能分化の推進 等
  • 効率化余地がある分野を適正化する視点
    後発医薬品の使用促進 等
将来に向けた課題

超少子高齢社会の医療ニーズに合わせた医療提供体制の再構築、地域包括ケアシステムの構築については、直ちに完成するものではなく、平成26年度診療報酬改定以降も、引き続き、2025(平成37)年に向けて、質の高い医療が提供される診療報酬体系の在り方の検討も含め、医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等に取り組んでいく必要がある。

出所)厚生労働省保険局医療課「平成26年度診療報酬改定の概要」2014年4月3日版をもとに、
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが各項目に同詳細ページから小項目を組み入れた

2.在宅医療の診療報酬引き下げで高齢者施設の医師が減少

在宅医療に対する診療報酬は、①往診・訪問診療等、②在宅時医学総合管理料や指導管理、③検査・注射・投薬・処置等の診療行為、④診療情報提供書・指示書の作成、⑤終末期の医療および看護等に関する費用等に大別される。そして、それらは、疾病の種類や施設の種類、1か月の訪問回数、訪問時刻等の条件によって加算や算定条件が変わってくるしくみとなっている。

平成24年には、在宅医療を実施する医療機関を増やす目的で、この在宅医療の診療報酬が増額された。その結果、施設への訪問診療は一回の訪問で多くの患者を診察できることから、関係者の間では“うまみがある”という印象さえもたれるようになった。

高齢者施設には、一部の特別養護老人ホームや有料老人ホームのように設置基準に医師の配置が含まれているところがある。その場合、非常勤の嘱託医として“名前貸し”をして見返りの報酬を得たり、さらには、入所者を紹介する見返りに、医療機関から手数料を受け取たりする「患者紹介ビジネス」が報じられたこと等が、報酬引下げのきっかけとなったとも言われている。

では、具体的には、どれくらいの報酬引下げがあったのか。医師の技術料に該当する在宅時医学総合管理料は約4分の1に、訪問診療料は約半分となった。特に、点数の大きな在宅時医学総合管理料の大幅減の影響は大きい。つまり、改定前は患者一人当たり約5万円程度支払われていたものが、改定後は約1.2~1.3万円となることになる。

【介護付き有料老人ホームやグループホームなど高齢者向け施設に
同一建物で複数患者への訪問診療を行った際の患者一人当たりの1ヵ月の報酬】

◆在宅時医学総合管理料*1

改定前4600点 → 改定後1100点

◆訪問診療料

特定施設等*2改定前400点 → 改定後203点

特定施設以外改定前200点 → 改定後103点

*1:機能強化型在宅療養支援診療所/病院で処方箋があり病床なしの場合

*2:介護付き有料老人ホーム、特別養護老人ホーム等

※1点=10円

これに対して、今年3月時点では、医療機関のうち過半数がこのまま訪問診療を継続すると考える一方、22.6%が「診療時間の短縮・訪問回数の削減」「看護師の動向は中止」等の診療の効率化を行い、16.5%が「医療機関の廃止」「高齢者の住まい向け訪問診療の廃止」等を考えているという調査結果もある。

Q. 今後高齢者向け住まいの入居者に対する訪問診療方針をどのように変更するか

「これまで通りの体制で訪問診療を続ける」59件(51.3%)

「体制の見直しや診療の効率化を行い、訪問診療を続ける」26件(22.6%)
→「看護師の同行は中止」「診療時間の短縮・訪問回数の削減」「診療所を1軒に集約」
「訪問看護ステーションを立ち上げる」等

「医療機関自体を廃院する」11件(9.6%)

「高齢者向け住まい全般への訪問診療を止める」3件(2.6%)

「一部の高齢者向け住まいへの訪問診療を止める」5件(4.3%)

「その他」11件(9.6%)

(財)サービス付き高齢者向け住宅協会 同一建物居住者に対する在医総管・特医総管の引き下げに伴う緊急アンケート、2014年3月12日発表、同会員及びその提携先の医療機関が対象、78の高齢者向け住まいと37の医療機関が回答

医師の訪問が減少する分、必要な診療を受けようとすると、施設が入所者を医療機関に連れて行く等の対処が求められる。また、法律が緩和されれば、遠隔診断や遠隔治療等の遠隔医療への需要が高まる。

高齢者施設における訪問診療が急に全く無くなるわけではないが、制度改定の影響が次第に出始める下期以降にどのような状況となるか、医療機関の動向を注視する必要がある。

編集人:井村 編集責任者:前場
編集協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社