前回までのコラムでは事例を交え新規事業プランを作る視点について考えてきました。今回のコラムではさらに進んで、実際に事業プランを作るステップについて解説していきたいと思います。
2017年10月17日
第6回 事業プラン作りまでのステップ
ステップ1 事業アイデアの募集
「事業アイデアの募集」をする前の事前準備
事業プランを募集するにあたって、まずは新規事業プロジェクトの説明会を開催する等、その趣旨と新規事業プランを採択する基準の説明を行いましょう。以前このコラム(第4回 新規事業立案に不可欠な着眼点)でも説明した、「どのビジネスはファウルゾーンで、どのビジネスがフェアゾーンか」という区分けを明確に伝える必要があります。
新規事業プランの採択基準については前回のコラムでも説明した通り、「市場の魅力度」と「自社の適合度合い」という二つの視点を入れたうえで自社なりの基準を説明します。これにより事前に、採択の基準を考慮した新規事業アイデアを集めることが可能になります。
「そんな枠をはめずに、社員に自由な発想の方が良いアイデアが出てこないか?」と、疑問に思われる方がいるかもしれません。新しいアイデアを作るのに枠をはめるというのは何か矛盾しているように感じることもあるでしょう。しかし、これまでの私の経験からすると、ある程度基準を決めたほうが応募してくる事業プランの質が高くなる傾向にあります。「自由な発想で」というのは社員の創造性を引き出すようですが、何も方向性を示されないのはアイデア出しの難易度を上げてしまうこともあります。基準を設けたほうが新規事業アイデアを考える側も考えやすくなります。
以上の理由から、まずは募集する前に新規事業プラン募集の趣旨と採択基準を明確に伝えておきましょう。
ところで、「事業プラン」と「事業アイデア」という似た二つの用語がでてきており、混乱している方がおられるかもしれません。「事業アイデア」とは、実際に事業化を検討する前の段階で、「事業プラン」よりもさらに前の段階にある、いわゆる「アイデア」レベルのものと考えて頂きたいと思います。例えば、前回紹介した介護施設向けソフトウェアビジネスの事業プランは、「介護施設対象とした、スタッフが日常行う事務作業の負荷を軽減するためのクラウドサービス」が、ここでいう事業アイデアということになります。当然ながら事業プランよりも大枠な表現となります。
「事業アイデアの募集」の実行
次のステップとして実際の新規事業プランの募集を行います。募集については二通りのやり方があります。一つは全社員を対象に新規事業アイデアを募集する方法、もう一つは専門部署やプロジェクトチームを作って考えてもらう方法です。どちらにもそのメリットとデメリットがあります。
全社員を対象として募集する手法のメリットは、新規事業アイデアが数多く集まりやすいことです。考える人数が多くなりますので、出てくる数が多くなるのは理解しやすいと思います。
一方でデメリットも存在します。それは新規事業プランのレベルのばらつきが激しく、評価する側の負担が大きくなります。また、応募する新規事業プランの数が多くなるということは、必然的に採択されないプランも多くなります。これが続くと、翌年以降プランに応募しようという社員のモチベーションが年々低下し、メリットであったはずの「多くの新規事業プランが集まる」という点が損なわれてしまう可能性があります。
専門部署やプロジェクトチームで新規事業プランを考える場合、そのメリットは、新規事業開発の趣旨やプランの基準についての理解は相対的に高くなるため、現実味があるプランが出やすいという点です。(但し、新規事業へのモチベーションが高いメンバーが集まっているという前提です)
一方でデメリットは、新規事業アイデアを出す人数が限られるのでプランの数がどうしても少なくなってしまいます。結局1件も採択されないということになるとメンバーのモチベーションが低下してしまう懸念があります。
どちらの手法が良いとは一概には言えませんが、それぞれのメリット、デメリットを考え、その対策を講じたうえで募集の方法を選択しましょう。
ステップ2 新規事業アイデアの評価
評価の際に用いる基準は「市場の魅力度」と「自社との適合性」の基準を用います(自社なりのアレンジを加えることもあります)。以前のコラム(第4回 新規事業立案に不可欠な着眼点)で紹介した、2×2の4象限を用いても良いですが、少し大雑把に感じるようであれば象限の数を増やして、3×3で評価することも可能です(図参照)。ただし、この段階であまり複雑になりすぎないように配慮しましょう。
市場の魅力度の評価
市場の魅力度は「市場規模」と「成長性」という二つの観点から評価をしますが、この2観点を総合的に考えると、「将来見込まれる市場規模」とすることができます。例えば、3年後を見据えた新規事業を創出したいとすると、市場の魅力度は3年後に見込まれる市場規模から評価する必要があります。例えば、3年後の想定市場規模が
魅力度 高: 500億円以上
魅力度 中: 100億円~500億円未満
魅力度 低: 100億円未満
です。
この金額は、新規事業に求める売上規模の大小によって調整します。また、この段階ではターゲット顧客のイメージはまだ具体的になっていないので、ある程度大枠の試算で問題ありません。
市場規模の評価をする際に注意するべき点として、将来の周辺市場への横展開を考慮せず、ビジネスを狭い範囲で捉えてしまい、「市場が小さい」と評価してしまうことです。現段階での新規事業アイデアの対象市場が小さいとしても、横展開が考えられるビジネスであればその点も考慮して評価しましょう。例えば、NIKE社はまずランニングシューズから入り、テニスシューズ、その後にマイケル・ジョーダンで有名になったバスケットシューズやウォーキングシューズ等に市場を広げることで大成功したのは有名な事例です。
自社との適合度の評価
「自社との適合度」は「自社が競争優位性を発揮できるか」と言い換えることができます。新規事業の場合、競争優位性は自社が持つ顧客基盤や技術的優位性、サービス品質等から由来するものが多いため、「自社との適合度」という、より現実感がある表現をしています。市場の魅力度と同様、3年後の予測から判断するとすれば、
魅力度 高: 3年後には市場でトップランクに立てる競争力が持てる
魅力度 中: 3年後には十分に競争できるレベルの競争優位性が持てる
魅力度 低: 競争力として弱く、3年後でも改善の余地がない
という評価軸で考えることができます。自社との適合度は市場の魅力度分析のように数字で計算が難しいため違和感を持たれる方がいるかもしれませんが、この段階ではあまり厳密さにこだわらずに評価してください。
この2ステップの目的は、集まった新規事業アイデアから良いものを選ぶというよりは、むしろ、明らかに可能性が低い新規事業アイデアを除くという考え方の方がうまく機能します。
上記のように、新規事業を行う全社的な目的を土台に、合理的判断基準を用いて選別することで可能性が低い新規事業プランを排除し、結果として可能性が高い新規事業プランを次の検討ステップに進めることができます。
一方、このような基準なしで評価を進めてしまうと、奇抜なアイデアが単に「面白い」というだけで高く評価されたり、声が大きい社員が出した新規事業アイデアが理由もなく高く評価されるということが起こり得ます。このようなことが起こると、その後のステップで無駄な作業が増えることになり、万が一このような新規事業アイデアが採択されると、結果として多額の資金を無駄にして失敗に終わるということになります。
このような事態にならないためにも明確な基準を作って新規事業アイデアを評価しましょう。
次回のコラムでは、この次の検討ステップについて解説したいと思います。
今までのコラムは下記からご覧いただけます。
執筆者:株式会社eパートナーズ 代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂
出口 彰浩氏
- <プロフィール>
- 株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。