新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2018年2月20日

第10回  収支計画の作成

前回は事業計画書全体の書き方について解説いたしました。
今回は、事業計画の中でも多くの方が「難しそう」や「面倒そう」と感じている収支計画の書き方について解説していきます。

前回のコラムでも書いた通り、新規事業における事業計画の目的は、経営陣等の意思決定者が新規事業立上げの可否を判断するための基礎資料となることです。この中で、収支計画は非常に重要な役割を果たします。ただ、「スタートする前なのに収支計画なんか作れるのでしょうか?どうせ作ってもその通りにならないのでは?」というご質問を時々受けます。確かに新規事業はやってみないとわかりませんので収支計画を正確に作るということは難しいのが現実です。しかし、この質問をする方は収支計画を含めた事業計画書を作る目的を誤解しているということになります。先述した通り、事業計画書を作る目的は意思決定者に新規事業立上げの可否を判断してもらうためのものです。判断をしてもらうために必要な要素は主に以下の2点です。

事業の成長が合理的根拠に基づいており、論理が通っている

新規事業を進めるにあたって必要なリソースや支出が適切に考えられており、費用項目において大きな抜けがない

この2点が新規事業の可否判断には大きなポイントとなります。この2点を踏まえながら、収支計画の作成を5つのステップに分けて解説します。

ステップ1 ビジネスモデルから収益構造を設計する

第8回のコラムでビジネスモデルキャンバスを活用したビジネスモデルの設計について解説しました。ビジネスモデルが設計できていれば必要な費用項目を設定できているはずです(この段階ではあまり細かくしすぎる必要はありません)。費用項目の中で変動費(売上に比例して増減する費用。例:仕入原価、販売手数料)と固定費(売上には直接は連動しない費用。例:人件費、地代家賃、広告宣伝費等)に分けたうえで、費用項目を挙げていきます。それが終わると売価を設定します。売価の設定は極めて戦略的な意思決定であり、事業に大きく影響を及ぼします。通常、顧客リサーチや競合製品やサービスの売価を参考にしながら決定します。売価と変動費が決まれば1販売量あたりの限界利益額が計算できます。売上、変動費、固定費を1枚の図に示せば後々モデルを作る際に作業が楽になります。

ステップ2 売上計画の作成

収益構造が設計できると、次は売上計画を作成します。失敗しやすい売上計画でよくあるのは、「売上は今期1億円、来期は2億円、再来期は3.5億円」と、特に根拠もなく大雑把に決めた売上計画です。売上計画を作る際には売上を構成する要素を分解して考えます。最初からあまり細かく分解し過ぎないことが一つのコツになります。一番簡単な分解は、「売上=客数×客単価」になります。例えば、介護施設の売上を分解すると「売上=施設のキャパ × 稼働率 ×客単価」という分解が可能です。この場合で考えると、施設のキャパ自体は変わらないので、稼働率をどう上げていくか、また客単価をどう上げていくかが、稼働率がどこまで達すればキャパを広げるために次の施設立上げを考えるか、等を考えていくことになります。

ステップ3 売上計画に基づいて変動費の計算

売上計画ができれば、1販売あたりの変動費がいくら必要かを計算します。この計算ができれば売上成長に応じた変動費額の計算ができます(エクセルで一瞬に出来ます!)。変動費はステップ1の収益構造の把握の段階で見積もれている場合もあるかと思います。その場合はステップ2の売上計画の作成が終わった段階で変動費の計算も同時にできることになります。

ステップ4 固定費の見積

売上成長を十分に賄える固定費額を見積もっているか、また重要な固定費項目が抜けていないかを検討します。新規事業がスタートした後に、「この費用を計上するのが抜けていましたので・・・。」とか「やってみたら思った以上に経費がかかりまして・・・。」というのは社内的に認められにくいのが現実です。新規事業の承認を得たいがために売上は盛り気味、経費は最大限切り詰めてという「バラ色計画」を見ることがありますが、その計画をもとに承認を取ってしまうと結局自分を追い込むことになります。やや余裕があるくらいの予算を組むほうが現実的な計画となります。また、売上成長と費用のバランスも考慮しましょう。売上は伸びているのに営業マンの数や広告宣伝費はさほど伸びていない計画を作ってしまうと成長の現実感が薄れ、営業利益の信ぴょう性が落ちてしまいます(さほど伸ばす必要がない場合もあるかもしれませんが)。納得感のあるロジックを組み立てた固定費の見積をしましょう。

ステップ5 収支計画全体の確認

この段階まで来ると営業利益の計算が可能になります。通常新規事業は一定期間赤字が続きますし、キャッシュフローとしてはマイナスが続きます。事業の成長ペースを設計したうえで資金は十分か、また撤退基準をクリアできるか、投資回収期間は求められる期間で実現するか等、様々な項目の確認を行います。この確認結果で売上成長のペースや経費予算等を修正していきます。この修正を通じて新規事業に求められる要素をクリアできるように新規事業のモデルや成長ペースをデザインしていきます。


以上、この5ステップを踏むことで収支計画が完成します。

プロのベンチャーキャピタリストは投資先候補の収支計画を最低3パターン(ダウンサイドケース、ベースケース、アップサイドケース)作成します。現段階の想定通りに進めばアップサイドケース、最悪のシナリオの場合はダウンサイドケース、最も可能性が高いシナリオはベースケースとします。
新規事業においても3パターン程度の収支計画を作り、「最もうまくいくケースはここまで成長します。最悪のケースでもこの程度の事業にはできます」と説明できると新規事業として採択される可能性は高まります。

次回は今回の収支計画を活用したPDCAの回し方と、事業進捗に合わせたビジネスモデルの変更について述べたいと思います。

今までのコラムは下記からご覧いただけます。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。