新規事業を立ち上げる前に知っておきたい10のポイント|新ビジネスの種

2018年3月22日

第11回  プランBへの進化

第1回から第10回まで このコラムを通じて新規事業の目的定義からスタートし、前回は収支計画の立案まで考えてきました。これら全ての情報を新規事業計画書としてまとめ、経営陣等の意思決定者に事業化の判断を仰ぎます。

今回のコラムでは意思決定者の評価を通過して事業化が決定した後、その事業を具体的にいかに進めていくかを考えていきます。

私がベンチャーキャピタリストだった時、10社に投資したとするとIPOまで至る会社は2~3社程度でした。さらに、この2~3社についても投資実行時のビジネスプランのまま上場まで至ることはほぼありません。成功するベンチャー企業は事業を進めていく中でビジネスの内容を少しずつ修正していきながら成長をしていきます。事業プランを進化させられない企業はIPOまで到達するのが極めて難しいと言っても過言ではありません。

上の話はベンチャー企業の場合ですが、新規事業においても全く同じことが当てはまります。事業化判断時のプランをそのまま変えずに成功するということはないと考えて良いでしょう。事業化を判断する前の段階ではリサーチから導かれる仮説が中心となります。一方で事業化が承認されビジネスがスタートすると実際に商品を使った消費者の声など、事業の実情を反映したリアルな情報が集まります。これらの情報から示唆を抽出してビジネスプランをより進化させていくことが新規事業の成否を左右するカギとなります。この、オリジナルのプランから進化したプランのことを「プランB」と言います。新規事業を成功させるためにはプランBレベルではなく、プランC、D・・・Zまで行くことを厭わず、実績からのフィードバック(仮説検証プロセス)を事業の進化に役立てる必要があります。

しかしながら、このプランBへの修正ができない企業が数多くあります。理由はいくつかあるのですが、最も多い理由の一つは「意思決定者に提出して承認を得たプランなのに、そう簡単に変えるわけにはいかない」という組織力学による理由です。これは新規事業の経験が十分でない企業に多いのですが、このような進め方をしていては新規事業の成功はおぼつきません。新規事業を進めるのであれば、少なくとも次の3つのマインドセットを持ちましょう。

ü たとえスタート前段階で詳しくリサーチをした新規事業プランであっても、実際にスタートしてみて初めてわかることはたくさんある
ü スタートして分かったことが当初立てた仮説とは異なる場合、その学びを出来るだけ早く事業に反映させてプランの精度を上げる
ü この仮説の再構築サイクルはできるだけ早く廻す

上記の考え方は数年前に流行った「リーン・スタートアップ」という考え方と同じです。今でも十分に活用できる考え方です。先に述べた通り、当初プランはほぼ確実に修正が入ります。この点を考えると、新規事業立ち上げに際してはできるだけ小規模からスタートし仮説検証を進めること(収支計画の少なくとも6か月は仮説検証の期間とし、大きな数字を入れないようにする)でリスクを極小化できます。小さく始めて、自分達のプランで想定した仮説で当てはまるものと当てはまらないものを判断し、当てはまらないものについては適宜修正してより精度が上がったプランを創り上げます。プランの成功確率が上がったと確信できた段階から規模を拡大させていきます。

例えば、介護施設ビジネスを新たにスタートする場合、仮説検証すべきポイントとして以下の点が挙げられます。

営業面では
Ø 当初想定したターゲットが獲得できているか、あるいは想定していなかったターゲットが反応しているのか
Ø サービス内容について顧客は満足しているのか
Ø 稼働率が損益分岐点に達する期間はどの程度必要か

また、オペレーションにおいては
Øどのようなトラブルが多く発生しているか。また、発生するトラブルは想定の範囲内か、想定していなかったトラブルが出ているとすればその対策をどのようにするか
Ø スタッフの採用・教育は計画通り進んでいるか(離職等組織面のトラブルがないか)

等を検証し、必要に応じてその対応策を検討します。新規事業では定量面の検証も重要ではありますが、同時に定性面でも仮説検証を進めていきましょう。

仮説検証のスピードについては、当初は仮説検証の定例ミーティングを週に1回程度持ちます。前週の活動を新規事業チーム全員で共有し、計画と実績の差異を確認・分析したうえでその学びを共有し対策を立案します。また、少なくとも月1回は経営陣等の新規事業の責任者に進捗を報告し、精度が上がったプランであるプランBの説明とその移行への承認を取り付けます。このプロセスを継続して回していくことでより精度が高いプランへ進化させることができ、新規事業の成功確率を飛躍的に向上させることができます。

しかし、残念ながらこのプロセスを踏んだとしても全ての新規事業案件が成功に至るという訳ではありません。どう修正をしても思い通りに事業が成長しないということも起こります。この場合はプランの大幅な変更を実施するか、新規事業チームにとっては大変苦しい選択となりますが、スタート前に設定した撤退基準に至る前に撤退を決めることもあり得ます。このプロセスを踏むことで仮に期待通りに事業成長しなかった場合でも損失を最小限に食い止めることができます。

プランBへの進化

新規事業を成功させるためには可能性が高い新規事業プランを立案するということは極めて重要ですが、それと同じ、あるいはそれ以上に重要なのが実際にスタートしてからの進め方です。常に市場からのフィードバックを分析し、新規事業をより進化させていくという姿勢を持ち続けましょう。これは新規事業だけでなく、全ての経営に当てはまるとことです。成功している企業は例外なくこのフィードバックプロセスを適切に廻しています。このプロセスを早いサイクルで廻し、新規事業の成功確率を向上させていきましょう。

私が執筆するコラムは今回で最終回となります。11回のコラムを通じて、成功する新規事業を立ち上げるための10のポイントについてご紹介して参りました。細かい点を言い出せばまだまだありますが、まずは大枠として今回のコラムでご紹介した10のポイントを活用いただければ成功する新規事業を生み出す確率は格段に上昇します。是非ご活用頂き、より多くの企業から将来性の高い新規事業が生み出されることを期待しております。

約1年の間、ご愛読ありがとうございました!

今までのコラムは下記からご覧いただけます。

執筆者:株式会社eパートナーズ  代表取締役 出口 彰浩氏
編集人・編集責任者:武坂

出口 彰浩氏

<プロフィール>
株式会社eパートナーズ(http://www.epartners2015.com/) 代表取締役。中小企業の成長戦略達成支援、新規事業構築支援等のコンサルティングを提供。成長意欲が高い中小・ベンチャー企業を中心に、経験から培ったノウハウと最新の経営理論の両面を駆使した戦略を提案。
某シンクタンクで経営コンサルタントとしてのキャリアをスタートし、約7年新規事業開発やマーケティング等のプロジェクトに参画。2年間の海外MBA留学を経てベンチャーキャピタル業界へ転身。10年以上に渡り経営メンバーとして多くのベンチャー企業の成長に携わる。
趣味の剣道は30年以上のキャリアで、錬士七段。少年剣道の指導も実施。剣道の教えは驚くほど経営にも当てはまると学びながら日々現場で奮闘中。